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14.9-09 遭遇9

「……というわけで、もう少ししたら、お姫様が昼食を食べに降りてくるわ?」げっそり


「……お姉ちゃん、ものすごく疲れ切ったような顔してるけど、大丈夫?」


「えぇ、大丈夫…………じゃないかも」


 来客室から出たワルツは、一階にある居間へとやってきた。そこでは、試験を無事に(?)乗り越えたルシアたちが、リラックスした様子で話をしており、今のワルツとは真逆と言えるような表情を見せていたようである。


 それゆえか、ルシアはワルツの表情が気になっていたらしい。なにか、悲しい事でもあったのだろうかと、心配したのである。


 しかし、そこはルシア。そう短くない時間を姉と共にしてきた彼女にとって、ワルツが何を考えているのかは、すぐに見当が付けられたようだ。


「……もしかして、お姫様と一緒にご飯を食べるのが嫌なの?」


 その言葉に、ワルツは「えっ?」と意外そうな表情を浮かべながら、妹の方を振り向いた。なお、その際、テレサも何か気になる事があったらしく、ワルツの方を振り向く。それも、ギュウンッ、という効果音か、ゴキッ、という効果音が聞こえそうな勢いで。


「よく分かったわね?」


 ワルツがそう口にした瞬間、テレサがゲッソリとした表情を浮かべた。何か、ショックを受ける事があったらしい。


 そんな彼女の事を、アステリアが不思議そうに覗き込んでいたようだが、アステリアは首を傾げるだけで、話しかけようとはしなかった。話しかければ藪蛇になると思ったのだろう。これまでの経験から、テレサがゲッソリフェイスになるときは、大抵下らない理由だと分かっていたのだ。


 まぁ、それはさておいて。ワルツたちの会話は続いていた。


「さすがにさ……見ず知らずのお姫様と食事を一緒に摂るって、気を遣わない?」


「!」ぱぁっ


「……テレサ。貴女には言ってないからね?」


「んー……確かに、1対1で食事をするってことになれば、緊張するかも知れないかなぁ?でも、皆で一緒にご飯を食べるなら、気を遣わないし、別に緊張はしないと思うよ?」


「なんか見られていると思うと、何人いても緊張しちゃうのよ、私。なんていうか……小心者っていうの?」


「お姉ちゃん……(自分から小心者って言っちゃうのはどうかと思うよ……)」


 ルシアは姉に対し、色々と言いたいことがあったようだが、彼女は姉の考えを尊重することにしたようである。ワルツの気持ちは分からないでもなかったからだ。


 と、そんな時。3本ある尻尾を、エンジンのようにブンブンと交互に揺らしていたテレサが、真っ平らな胸を張りながら口を開いた。


「なるほど。分かったのじゃ!つまり、2階におる令嬢と食事をするとき、ワルツが目立たぬようにすればよいのじゃろ?」


 テレサのその言葉を、最初は無視しようかと考えていたワルツだったが、よくよく考えてみると、テレサの言うとおりなのではないかという気がしてきたようである。結果、彼女は、興味深げにテレサへと問いかけた。


「……まぁ、その通りだけど、何を考えているのかしら?」


「話は簡単なのじゃ。ワルツよ。妾たちの妹にならぬか?」


「……は?」


「今のワルツは妾たちよりも背が低いゆえ、それを利用すれば、ワルツに注意が向けられることは無いのではないかと思うのじゃ。つまり、ワルツが妹を演じて、妾たちが姉を演じれば、わざわざ妹の方に意識が向けられる事はないのではないか、との」


 テレサはそう言いながら、スポンッ、と自分の尻尾を1本外して、ワルツへと差し出した。腰に付けろと暗に言っているらしい。


「……これ何?ゴミ?」


「ゴ、ゴミではないのじゃ!尻尾の代わりに付ければ良いと思うのじゃ?」


「……いつも思うんだけど、貴女の尻尾って、どんな原理でくっついているのよ?」


「……物理学的に言うなら、"強い力"でくっついておるのじゃ」


「全然意味が分からないわ……っていうか、それ、くっつけたら、二度と取れなくなるやつよね?まぁ、ともかく、別に耳とか尻尾とかを付けなくても妹だって言い張ることは出来るから、尻尾はいらないわ?気持ちだけ貰っとく」


「う、うむ……残念なのじゃ……」しゅん


 テレサはそう言うと、腰に尻尾を戻した。そんな彼女の尻尾をアステリアがジィッと観察していたのは、ワルツと同じく、彼女の尻尾の原理に興味があったからか。


「まぁ、とりあえず、私が妹って(てい)で、昼食を摂ってみましょう」


「あ、本当にやるんだ……」

「うむ。分かったのじゃ」

「妹……」


 こうして、マリアンヌと食事を摂るとき、ワルツは皆の妹役を演じることになったのである。


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