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14.9-08 遭遇8

『(あれ?もしやワルツ様は、マリアンヌさんがどのようなことをされたのか、ご存じない……?)』


 ポテンティアは、何にでも擬態できる能力を使い、自主的に諜報活動をして、マリアンヌがしてきたこと——つまり、隣国のエムリンザ帝国を操って、レストフェン大公国を混乱に陥れたことを知っていた。ゆえに彼は、ワルツたちがマリアンヌのことを家に連れていくと発言したときも、彼女たちの副音声を読み取った上で、同意したのだ。……ワルツたちも、マリアンヌの所業を知っていて、彼女の事を尋問するか、または彼女に責任を取らせるために、自宅に連行することにしたのだろう、と。


 ワルツなら、諜報活動程度のことなど、朝飯前にこなすはず……。そう考えていたポテンティアは、彼女が情報を知らないとは微塵も疑わなかったのである。それ故に、マリアンヌのことを元いた場所に戻そうと発言するワルツの発言を前に、ポテンティアは混乱状態にお散ってしまったようだ。


 だが、ポテンティアはこの期に及んででも、ワルツが事情を知らないとは思えなかったようである。そして彼は、気付いた。……諜報活動によって得られた情報は、あまり明言すべきことがらないではないのだから、ワルツは敢えて知らない振りをしているのではないか、と。


『なるほど……』


「何が"なるほど"なのよ?」


『いえ、少し誤解をしておりました。ワルツ様は、マリアンヌさんの事を泳がせるつもりなのですね?』


「うん?泳がせる……?」


『またまたそうやってお(とぼ)けになって……。えぇ、分かっていますよ。皆まで言われなくても』


「んん?いや別に、惚けているつもりは……まぁ、いっか。とにかく、マリアンヌの体調が万全になったら、町に帰してくるわよ?ウチにお姫様なんていても、何にも特なんて無い……っていうか、2人もいらないんだから」


 というワルツの言葉に、ポテンティアは「そうですね。確かに仰る通りです」と首肯した後で、しかし彼は首を横に振る。


『ですが、残念ながら、ギルムの町で問題が生じているようです』


「問題?また、スタンピードとか、戦争とか、爆発とかが起こったりしたのかしら?」


『ワルツ様が言うと、全部、洒落にならないのですが……そうではありません。実は、マリアンヌさんの身請け人になっていたギルムの町の公爵様が、マリアンヌさんの事をいなかったことにしてしまったようなのです』


「……は?」


分身(マイクロマシン)たちを使い調べたのですが、屋敷から失踪したマリアンヌ様の事が公になると大問題になる、と公爵様は考えられたようで、それであれば、最初からいなかったことにすれば良い、という結論に至ったようです。つまり、現状、マリアンヌさんに帰る家はありません』


「……なんか、複雑な家柄なのね……」


 そう口にするワルツの頭の中には、複数の疑問が浮かんできていたようである。……公爵家はマリアンヌの実家ではないのか。なら彼女の実家はどこにあるのか。ポテンティアなら知っているはずだが、彼が言わないと言うことは、つまり実家は既にないということなのか……。普段からワルツ自身が言葉足らずだったためか、彼女はポテンティアの発言の行間をミスリードし、適当な解釈を積み上げていったようである。


「お気の毒に……」


『えっ……?』


「分かったわ?受け入れ先が見つかるまでの間、彼女がこの家に滞在するのを認めるわ」


『えっと……はい。承知いたしました』


 何故、手のひらをくるりとひっくり返したのか……。ポテンティアは内心戸惑っていたようだが、今このタイミングで理由を問いかけると、話が拗れると思ったのか、彼はワルツの決定に素直に従うことにしたようだ。


「で、昼食、どうするの?お姫様は眠っているようだけど、起きられるのかしら?」


『えぇ、大丈夫だと思います』


「じゃぁ、彼女の分も準備するようテレサに伝えるわね」


『ところで試験結果の方は?』


 ポテンティアが気になっていたことを問いかける。それによっては、今日を含めてあと4日の休みが吹き飛ぶ可能性があったからだ。


 しかし、彼の懸念は杞憂に終わったようである。部屋から出て行こうとしていたワルツが、一言だけ——、


「みんな合格だったわよ?」


——嬉しそうな笑みを浮かべながらそう口にしたからだ。


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