14.9-04 遭遇4
マリアンヌに事情聴取をしていたポテンティアは、彼女の口からポツラポツラと語られる真実に、驚きが隠せなかったようだ。
『ほほう?あなたは魔女だったのですか。で、魔法を使ってエムリンザ帝国の第一皇女になりすましていた、と。ちょっと何言ってるか分かりませんね。で、何でしたっけ?僕に幻影魔法が効かない?そりゃそうですよ。いつも、もっと面倒臭い幻影魔法を使ってくる方がいらっしゃいますからねー。気付いたら耐性が付いてしまいました』
と言って肩を落とすポテンティア。彼としては色々と言いたいことがあったようだが、その中でも彼がツッコミを入れたかったのは、マリアンヌの正体だったようだ。
マリアンヌ曰く、自分は魔女だというのである。人の思考や記憶を操作しやすくする"匂い"を使い、急速に人の心に溶け込み、ついには皇女の座を獲得したのだとか。ちなみに年齢は不詳である。女性に年齢を聞くのは紳士のやることではない、とポテンティアが敢えて聞かなかったのだ。
『で、目的は世界征服と?まぁ、そういう考えは嫌いじゃないです』
「えっ……」
『ですが、考えが甘かったですね。世の中には、似たような考えをもつ人たちが無数にひしめきあっていますし、生物の理の外側にいる方々が政治を回している国だってたくさんありますからね』
「…………」
ポテンティアの発言の一つ一つが、マリアンヌにとっては絶望的な内容に聞こえていた。つまり、彼女がどんなに頑張ったところで、いつかは正体がバレて、潰される運命にあるということだからだ。
『でもまぁ、安心してください。僕たちは、あなたのしたことを誰かに言いふらす気もありませんし、あなたをこのまま束縛するようなこともいたしません。あなたはこれまで通り、自由に振る舞えば良いのです。ただ、僕たちの邪魔になるようでしたら、舞台上からご退場を願いますのでご注意ください』
ポテンティアはそう言って、マリアンヌの返答を待った。対するマリアンヌは、光の無い瞳でポテンティアのことを見上げながら、なんと返答して良いのか分からない様子で、狼狽えるばかり。
ポテンティアとしては、そんな彼女から、無理やりに言葉を引き出そうとは思っていなかったらしく……。
『では、聞きたいことも聞けたので、お食事にいたしましょう』
そう言って、パチンッ!と指を鳴らした。
その瞬間——、
ガチャッ……
『失礼します』
——2人目のポテンティアが姿を見せる。マリアンヌのために、朝食を持ってきたのだ。
「……え゛っ……ふ、双子……?」
あまりにそっくりなポテンティアAとポテンティアB(以下、ポテA、ポテB)を前に、目を丸くするマリアンヌ。
対するポテAとポテBは、お互いに顔を見合わせた後、揃って同じ反応を見せた。
『『なるほど!それは言い得て妙ですね!』』
どうやら、ポテAとポテBとの間には、双子だという認識は無かったらしい。
というのも、話は単純で、彼は双子ではないからだ。
『しかし、僕らが双子……いえ、兄弟だとするなら、いつも兄弟たちの生と死を祝ったり悲しんだりしなければなりませんね』
『えぇ。昨日も個体番号60億6829万2245番の兄弟が機能を停止しましたし、その代わり新しい兄弟が生まれましたし……』
「…………」ぽかーん
『おっと!マリアンヌ様が、僕らの話しについて行けていない様子です』
『なんと!僕らとしたことが……』
『『えっと……ようするに、僕たちは兄弟です!』』
「は、はあ……」
『まぁ、そんな細かい事は置いておいて、まずは朝食を片付けて下さい。実はこの朝食、兄弟が作ったものなんですよ?……あぁ、変なものとかは入っていないので安心してください』
と言って、朝食の載ったお盆を机の上に置くポテB。さすがに、マリアンヌのことを、ベッドに寝かせたまま食べさせるというのはどうかと思ったらしい。
お盆を置いたポテBは、ポテAの方へと移動した。マリアンヌからすれば、何か用事があって2人が接近したのだと思えていたようだが……。ポテBは、そのまま速度を緩めること無く、ポテAとぶつかり、そして——、
ムチュッ……
——とスライム同士がぶつかるような音を立てながら、一つの塊に融合してしまった。
その様子を見たマリアンヌが、唖然として固まっていると……。間もなくして、ポテAとポテBの融合が完了し、ポテCが人の姿を形作る。
『おや?どうかされたのですか?マリアンヌ様』しれっ
ぽかーんと口を開けたまま、ポテンティアのことを見つめるマリアンヌに対し、まるで何事も無かったかのように首を傾げて問いかけるポテンティア。それからしばらくの間、2人は見つめ合っていたようだが、30秒ほど経って、ポテンティアは、とある事に気付いた。
『おや?ずっとこちらを見つめていたので、もしかして僕に一目惚れされたのかと思いましたが、よく見たら白目を剥いて気絶していますねー』
どうやらマリアンヌは、目の前で生じた出来事が受け入れられず、意識を手放してしまったようだ。




