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14.9-01 遭遇1

 次の日の朝。


「……うぅん……」


 エムリンザ帝国第一皇女のマリアンヌは目を覚ました。随分と長い時間を寝ていたかのような痛みが、彼女の頭を襲う。


 しかし、彼女は目を開けて周囲を見回した直後、頭の頭痛などどうでも良くなったようだ。そこには見知らぬ天井、もとい見知らぬ部屋の光景が広がっていたからだ。


「こ……ここ、どこなの?」


 なぜ自分はこんなところにいるのか……。マリアンヌは眠る前の事を思い出そうとする。


「(確か、公爵のところで黒い虫を見て、必死になって逃げて……うぅ……思い出せない……)」


 ギルムの町の路地裏を走っていたところまでは、彼女も覚えていたようである。しかし、覚えていたのはそこまで。その先のことを、彼女はまったく覚えていなかったのだ。彼女は路地を走っていて、気を失ったので当然の結果だと言えた。


「誰かに誘拐された……わけではなさそうですわね……」


 マリアンヌには何か拘束具が取り付けられていたわけではなく、完全に自由な状態だった。彼女が寝かされていたベッドも小綺麗なもので、部屋の中も豪華ではないが、それなりに大きな部屋だと言えた。


「どこかの貴族……?いえ、商家なのかしら……?」


 マリアンヌはそのままベッドから起き上がると、窓の方へと進む。外は晴れなのだろう……。日当たりの良い眩しい外の景色を確かめるために、彼女は透明なガラスが填め込まれた窓から外を見ようとして——、


「……え゛っ」


——固まった。窓の外に広がる景色が、予想とは大きく異なっていたのだ。というより、外ではなかったというべきか。


 彼女の部屋があったのは、建物の2階部分。そこから見えたのは、町一つを取り囲むくらいに巨大な地下空間の光景だった。空には煌々と輝く真っ白な太陽のようなものが浮かび、壁からは滝のような地下水が流れ落ちていて、地の底には川が流れ、花畑や野菜畑が広がっている……。その光景を前にして、マリアンヌの混乱には一気に加速した。


「わ、私の頭がおかしくなったのかしら?それとも……」


 悩んだ末、彼女が辿り着いた結論は——、


「……あぁ、そ、そうですわ!これは夢ですわ!夢に違いありません!」


——現実を受け入れることを諦め、開き直ること。これは夢なのだから、気にするだけ無駄だ……。マリアンヌはそんな考えに至ったらしい。


 結果、彼女は、再び夢の世界(?)に旅立つべく、ベッドに戻ろうとした。ここは夢の中。いまここで眠れば、この異常とも言える世界から、元の世界に戻れるかもしれないと考えたらしい。


 しかし、彼女は、ベッドに戻ったところで、再びピタリと固まってしまった。


「こ、このベッド……なんて触り心地が良いのかしら!しかもやわらかくて、まるで雲を触っているかのようですわ……!さすがは夢!」


 彼女はベッドの質の良さに気付いたのだ。部屋自体に飾り映えはなかったものの、ベッドのクオリティだけは異次元のレベルだったらしい。


 そして、彼女が欲望(?)に耐えきれず、ベッドに頬ずりを始めた直後。


「……ん?」


 彼女の動きが再び止まる。また新しいことに気付いたらしい。


「(そうえいば、あの窓、とても綺麗なガラスが填め込まれていますわね……。まるで水晶を薄く切って磨いたかのような……。んん?よくよく見てみたら、この部屋の扉も、飾り気は無いですけれど、とても洗練されていますわ。このような綺麗な扉なんて、城でも見たことがありませんわ……。はっ?!この壁や天井だって——」


 飾り気の無いただの部屋だというのに、マリアンヌの興奮は段々と加速していった。よくよく見てみると、部屋の中にあるもの1つ1つのクオリティが、凄まじく高かったのだ。


「なんて品質なの?!このツルツルの床も、石だと思ったら、綺麗に磨かれた木ですわ!素晴らしい……素晴らしいですわ!なんて夢の世界なのでしょう!」


 現代日本などでは普通に見ることの出来るフローリングの床を見て興奮したマリアンヌは、床に張り付いて、詳しく床材を観察しようとしたようである。


 そして、彼女が地面に伏せた——そんな時のことだった。


   コンコンコン……ガチャッ……


『失礼しまs……えっ』


「……えっ」


 マリアンヌが居た部屋に、ポテンティアが入ってきたのは。


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