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14.8-39 試験39

 それから間もなくして、路地裏に隠れていたワルツたちの所に、昆虫の姿のポテンティアが現れる。


『おや?その方——え゛っ……』


 彼はそこにいた人物を見た途端、言葉が詰まってしまった様子だった。


 ただ、姿が小さかったためか、彼の異変にワルツたちが気付く様子は無い。


「ん?この人がどうかしたのかって?なんかよく分かんないけど、テレサに轢かれて転倒して、気を失っちゃったのよ。可愛そうに……」


「いや、どう考えても、悪いのは此奴の方なのじゃ!妾は悪くないのじゃ!」


『なんという災難でしょう……(むしろ、自業自得でしょうか?)』


 ポテンティアは、意識無く横たわる姫(?)の事を見て、驚いていた。彼はその人物の正体を知っていたのだ。……エムリンザ帝国から逃げ出した第一皇女のマリアンヌだ、と。


 というのも、彼は、エムリンザ帝国を襲撃した際、城からマリアンヌが転移魔法らしき方法で逃げ出す様子を目の当たりにしていたのだ。その他、彼女が軍務大臣などと結託して、レストフェン大公国を混乱に陥れようとしたことも知っていた。小さな虫の姿であれば、敵情視察などお手の物だからだ。


 そんなポテンティアは、このギルムの町で、マリアンヌのことを少し前に見つけたのである。しかし、どういうわけか、マリアンヌも虫の姿のポテンティアを知っていた(?)のか、急に逃げ出して……。そんな彼女の事をポテンティアも追いかけて、結果マリアンヌは、逃走中にテレサにぶつかって昏倒したのである。


 そういった背景もあり、ポテンティアは、マリアンヌについてすべての事を知っていたようである。しかし、彼はどういうわけか、そのことをワルツたちには明かさなかった。なにやら、考えがあってのことだったらしい。


『この方をどうされるおつもりですか?』


「とりあえず、意識を取り戻すまで、連れ帰るつもりよ?」


『そうですか……。ワルツ様がそう決められたのでしたら、僕に異論はありません』


 もしかするとワルツはすべてを知っていて、マリアンヌを誘拐しようとしているのではないか……。ポテンティアはそんな予測を立てたようである。ゆえに、彼はそれ以上、詳細を問いかけなかった。知っていることを敢えて聞くというのは、愚問に他ならなかったからだ。


『……なるほど。ワルツ様のお考えには感服いたしました』


「えっ……いや、まぁ……その通りなんだけどね?」


 と、何故か照れるワルツを前にしながら、ポテンティア内心でマリアンヌのことを慮ったようである。ワルツが動いたとなれば、この先、マリアンヌには、明るい未来が来る事はない……。ポテンティアにはそんな気がしてならなかったようである。


  ◇


 その後、ギルムの町からマリアンヌが消えたことで、町を治める公爵たちは慌てに慌てたようである。隣国の第一皇女が失踪するなど、大問題以外の何者でもないからだ。むしろ、大問題という言葉で片付けられないほど、超巨大な問題だと言えた。下手をしなくても、国家同士が絡む問題に発展する可能性が高いからだ。


 マリアンヌが姿を消した以上、公爵たちは追い詰められたといえなくなかったが、幸いと言うべきか、彼らには逃げ道が存在していた。マリアンヌはエムリンザ帝国から秘密裏に逃げ出してきていた、という点だ。秘密裏に逃げ出したということは、彼女がここに来たことは、身内の関係者しか知らない、ということ。ようするに、マリアンヌが失踪した事を、身内以外の誰にも言わなければ、問題には発展しないということだ。


「マリアンヌ様など、最初からここにはいなかった。……良いな?」


 この町の最高権力者である公爵が発したその言葉に、反論する者がいるわけもなく、彼女の存在はギルムの町から消えることになる。


 そんな彼が、エムリンザ帝国の状況を知るのは、しばらく経ってからのこと。その一報を知った公爵がどんな表情を浮かべたのかは、言うまでもないだろう。

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