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14.8-37 試験37

「ちょっと、テレサちゃん?なんでお姫様のこと轢いたの?」


「いや、そんなこと言われたって、出会い頭の衝突なのじゃから、どうしようもないじゃろ?しかも突っ込んできたのはこの者の方なのじゃ。10対0で妾は悪くないのじゃ!」


 テレサは困惑した表情で、吹き飛ばしてしまった通りすがりの姫(?)を前に言い訳を口にする。そんな彼女の言葉通り、まさか路地から、令嬢らしき人物が全力で走ってくるなど思ってもいなかったのだ。


 身体が特殊合金で出来ているテレサの圧倒的な体重差により吹き飛ばされた姫(?)は、地面に倒れ込んだ後、気を失ってしまったようである。擦り傷があったのでルシアが回復魔法を掛けると、ひとまず怪我は完治したようだが、失われた意識まではすぐに戻らなそうだった。


「どこ貴族の令嬢かの?」


 誰何するにも相手に意識は無い……。仕方ないので、テレサたちは、姫(?)の持ち物を調べようとした。しかし、その直前。


『こっちに行ったぞ!』

『この路地か!』

『くそっ!何故こんな場所に逃げ込んだんだ!』


 そんな声を上げながら路地の向こう側から男たちが走ってくる。とはいえ、彼らの姿は未だ見えない。恐らくは、姫(?)を追いかけてきた兵士たちなのだろう。あるいは兵士の服を着たまったく別の何か、か。


 その声を聞いたテレサたちはお互いに顔を見合わせた。アイコンタクトだ。ルシアはジト目、ワルツは呆れ顔、アステリアは苦笑、ポテンティアは——まぁ、昆虫化している彼のことは置いておこう。平均を取ると、テレサを非難していて、責任を取るべきだと考えている者が多かったようだ。


 しかしである。当のテレサは、倫理のテストが最下位。そんな彼女が真っ当な方法で責任を取るわけがなかった。


「……見つかれば、関係者は皆、打ち首になるかも知れぬ。考えてもみよ?一国の姫に体当たりを仕掛けてきたのじゃぞ?たかだか町の令嬢ごときが!」


 そんなテレサの発言にワルツが眉を顰める。


「ちょっと、何言ってるかわからないと思ったけど……もしかして、一国の姫って貴女のこと言ってる?で、関係者っていうのは、この町の人たちのこと?」


「さすがはワルツ!まったくもってその通りなのじゃ」


「……いやね?貴女、元姫であって、今はただの学生よね?むしろ、打ち首になるのは貴方の方じゃない?(まぁ、貴方の首を斬れる武器が存在すればの話だけど……)」


「……やっぱりダメかの?学割とか効かぬかの?」


「うん。まぁ、ダメでしょうね」


 ワルツに首を振られたテレサはガックリと肩を落として俯いた。


 と、その直後。


「おい!そこのお前たち!」


 遂にテレサたちの所に兵士たちがやって来る。


 しかし、彼らはどういうわけか、意識の無い姫(?)が目の前に横たわっているというのに、まったく気付いていない様子だった。彼らはそのままテレサたちに問いかける。


「ここに、このくらいの身長の女の子は走ってこなかったか?」


 その問いかけに、テレサは一旦俯くと……。心に仮面を被って、顔を上げ、そしてこう答える。


「女の子ですか〜?ちょっと数が多すぎて、よく分かりませんね〜。ここには町の子供たちも多いですから〜」


 と、柔和なしゃべり方、もといコルテックスモードで話すテレサ。


 そんな彼女の後ろで、ルシアは至極微妙そうな表情をうかべていたようだが、彼女がテレサの揚げ足を取るような事はなかった。ルシアはテレサが幻影魔法で姫(?)を隠している事に気付いたのだ。


 アステリアもそう。テレサが幻影魔法でこの場を乗り切ろうとしていることを汲み取ったようである。


 そしてワルツは——、


「(は?このおじさんたち、目の前にお姫様がいるのに見えてないの?ボケてんの?まさか、ツッコミ待ち?)」


——幻影魔法の類いが一切無効だったためか、兵士たちがおかしな事を言い出したとしか思わなかったようである。その際、ワルツの視線が、兵士とテレサとの間で行ったり来たりを繰り返していたのは、ワルツとしては、兵士のこともテレサの事も、同じように変人として見えていたから、なのかもしれない。


 一方、問いかけた側の兵士は、どんな人物を探しているのか説明が足りていなかった事に気付いたらしく、言葉を補足した。


「確かに、子どもと言うだけでは分からんか……。他の者たちにはあまり話して欲しくないのだが……ドレスを着た姫君のような御仁がこの辺に走ってきたはずだ。分からんか?」


「ん〜、お姫様ですか〜。ちょっと分かりませんね〜。少なくとも、私たちが歩いてきたこちらの経路では会いませんでしたよ〜?」


「そうか……ありがとうな。おい!あっちに行くぞ!」


 兵士はそう口にすると、テレサたちから離れていった。


 その様子を見届けた後で、テレサは心に被せた仮面を外す。


「……妾、嘘は吐いておらぬじゃろ?」


「いやいや、知ってるのに、知らないって言ったよね?」


「いや?知らないとは言っておらぬのじゃ。分からないとは言ったがの?」


「それ、ただの屁理屈じゃん……」


 ルシアは何か酷いものを見た、と言わんばかりに、テレサへと再びジト目を向けた。


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