14.8-34 試験34
どうやら、この世界の町は、例外なく城塞都市になっているらしい。ワルツたちがやってきたレストフェン大公国第二の都市も、町の周囲をぐるりと取り囲むように壁が作られていて、外部からの意図しない侵入を防ぐような作りになっていたようである。
「ここも町の外に壁があるのね……。戦争でも起こるのかしら?」
「多分だけど、魔物対策って意味合いもあるんじゃないかなぁ?」
「貴族たちが、見栄を張って好き好んで壁を立てておるのかも知れぬのじゃ?」
『むしろ、町の外に壁を作ったのではなくて、壁の中に町を作った可能性もあるのでは?』
「えっと……もしかして、これって試験で出るんでしょうか?」
「多分——」
「出るのじゃ」
「出ない」
『先生の耳に入れば出るかも知れません』
「……実際、どうして壁を建てたんでしょうね?」
「「「『さぁ?』」」」
そんなやり取りをしながら一行は町へと近付いていく。
この時、ポテンティアは、馬車らしい馬車に変形し、馬らしい馬で馬車を引っ張っていたようである。変な形の乗り物が町に近付くと、警戒されてる恐れがあるので、念のためオーソドックスな馬車の形状に変形したのだ。なお、馬に化けた経験が無いためか、ポテンティアが形作った馬は少し動きがおかしく、足がバラバラに動いていたようである。再現できたのは、馬の見た目だけらしい。
しかし、馬の動き方など大して気にしないワルツたちは、ここまでの道中と同じように、のんびりと周囲を眺めていたようである。その内に、彼女たちの目に、とある光景が飛び込んできた。
「あれは……兵隊さん?」
「っぽいわね」
「戦争でもするのかの?」
「もしかして……学院に攻めてくるとか……」
『いえ、魔物と戦う準備をしているのかも知れませんし、公都を取り戻す準備をしているのかも知れません。外国との戦争かも知れませんし、領地を賭けて貴族同士が戦おうとしている可能性もあります』
町の周りには無数の兵士たちが陣を構えていて、これからどこかで大きな戦闘をするかのような準備をしていたのである。
そんな焦臭さにワルツは思わず眉を顰めた。
「どうする?このまま町に入る?私としては、もうちょっとのんびりしてるかな、と思っていたんだけど、これじゃ町中が殺気立ってる可能性もありそうよ?」
このまま町に入ると、厄介ごとが待っているような気がする……。そんな彼女の直感に、ほかの3人(と1頭)も頷くのだが、せっかく町の前の前に来たと言うこともあり——、
「ちょっとだけ覗いてこ?」
「まぁ、何かあったら、妾が魔法を使うだけゆえ、問題は無いのじゃ」
「えっと……もしもの時はお願いします!」
『皆で固まって歩けば、とりあえずは問題無いでしょう』
——ワルツ以外の者たちは、町を覗いていく気満々だったようである。
結果、直前になって及び腰になっていたワルツも、考えを改めることにしたようだ。
「みんながそう言うのなら、行きましょうか?でも、離れて行動しないこと。離れた時は……まぁ、きっとポテが付いてるから大丈夫ね」
『えぇ、お任せ下さい!たとえ、火の中、人混みの中……皆さんの行くところにはピッタリと付着していきますので!』
「流石ポテンティア。付いていく、って言わないところが気持ち悪いわね……」
『お褒め頂き、ありがとうございます!』
「えぇ、全然、褒めてないけれどね?」
ポテ馬が何やら喜んでいる様子にワルツがジト目を向けていると、間もなくして町の正門に並ぶ人々の姿が見えてくる。どうやらこの町も、入るのに身分証が必要らしい。
すると——、
「ねぇ、お姉ちゃん?」
——検問を見たルシアが、心配そうにワルツに対して問いかけた。
「どうかしたの?」
「私たち学生の服を着てるけど、大丈夫かなぁ?それに、身分証って学生証だよね?もしもこの町が、学院に対して敵対的だったら、捕まっちゃうんじゃないかなぁ?格好を変えなくて大丈夫かなぁ?」
「……大丈夫よ?ルシア。テレサがなんとかするから!」
「ちょっ?!いきなりかの?!」
まだ町に入ってすらいないというのに、いきなり言霊魔法を使えというのか……。ワルツたちの無茶振りに、テレサがゲッソリとした表情を浮かべ、言霊魔法を使った強行突破以外に何か手段は無いかと考えたようである。
しかし、良い考えが浮かぶ前に、前に並んでいた人々が次々に町の中へと消え……。ワルツたちが検問を受ける番がやってきたのである。




