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14.8-33 試験33

 追試も一段落して、あとは結果を待つだけとなったワルツたちは、午後が丸々休みだったので、レストフェン大公国において第二の大きさを誇る町に向かって真っ直ぐに進んでいた。そう、真っ直ぐに、だ。ただし空を飛んでいたわけではない。


 ワルツたちが住む村は森に囲まれていたので、公都に行くにしても、それ以外の町に行くにしても、森の中を蛇行するように作られた街道を通らなければならないはずだった。だというのにワルツたちは、町に向かって、最短距離を移動していたのである。


 理由は至極シンプル。移動しながら森を切り開いて直線の道を作っていたのだ。具体的には、ポテンティアが馬車型に変形して皆を乗せ、その上からルシアが魔法を使いて木を切り倒しながら道を作る、という方法で。


 ゆっくり走るのではなく、ビュンビュンと移動しながら、一行は新しい道を作っていく。しかも道も適当なものではなく、魔法で作った石畳が敷かれていたので、下手なアスファルト道路よりも立派な道になっていた。


「〜〜〜♪」

『動く点Pが等速直線運動で移動しています』


「またポテが訳の分からぬ事を言っておる……。しっかし、馬車の旅って、こんなものじゃったかのう?なんかこうもうちょっと違うような気がしたのじゃが……」

「はは……これはもう何て言うか……んー、まぁ、こんなものなんじゃないでしょうかね?馬がいないですけど……」

「アステリアも大分私たちに慣れて来たようね……」


 ルシアがノリノリで石畳を敷き、ポテンティアが意味不明な発言をしながら自分たちを乗せて移動していく様を、テレサとアステリア、そしてワルツは、ただボンヤリと眺めていたようである。


 木々の隙間から零れる日射しや、森の中を流れていく風が心地よく、一行にとっては、テスト明け(?)の散歩として丁度良いストレス発散になっていたようである。そのせいか、やることのなかったテレサあたりの瞼が段々重くなってくる。


「暇じゃのう……」

「暇ねぇ……」

「森が切り開かれていく光景は面白いですけどねー」


「そういえばアステリア」


「はい?」


 ワルツから徐に飛んできた質問に、アステリアが反応する。


「貴女の故郷ってどこにあるの?もしもこの近くなら、せっかくだし、ちょっと立ち寄るっていうのも有りか、って思ってたんだけど?」


「私の故郷……」


 ワルツに問いかけられたアステリアは、空を見上げたまま黙り込んでしまった。簡単に答えられるような場所ではなかったらしい。


 アステリアは、木の葉の影にチラリと見える太陽に目を細めながら、ゆっくりと答え始めた。


「実は、どこから来たのかよく分からないんです」


「よく分からない?(どこかの誰かも同じ事を言ってたわね……)」


「もっと小さかった頃に、攫われてしまったんですよ。私」


「あ……ごめん……。なんか思い出したくないこと聞いちゃったみたいね」


「いえ。獣人は遅かれ早かれ、奴隷にされる運命にあるのですから、気にされないでください」


「そう……貴女がそう言うのなら……。ちなみにどんな場所だったの?たとえば風景とか」


「……こんな感じで木漏れ日が綺麗な森の中に住んでいました。家の周りには、たくさんの木の実がなっていて、近くには川があって……妹と一緒にたくさんお魚を採っていましたね」


「そういえば妹がいるって話だったわね?」


「えぇ、ノクティルナって名前の子です。まぁ、ちょっと長いので、いつも愛称のノーチェって呼んでいましたけど」


「ノーチェ、か……。聞いた事は無い名前ね」


 少なくとも、今まで知り合った人々の中では聞いた事がない……。ワルツは頭の中のデータベースを見直してみたが、学院の生徒を含めて、ノーチェなる人物に会った記録はなかった。


「そのノーチェって妹さんも、誘拐されちゃったの?」


「どうでしょう……。ノーチェは私よりも……いえ、多分、上手く逃げおおせたんじゃないかと思います」


「今、何か言おうとしてなかった?」


「いえ、ただの言い間違いです。あの娘はすばしっこいですからね……。どんくさい私とは違って、逃げられたはずです」


「そうなの?まぁ、でも、貴女もあまりどんくさいとは思わないけど……」


 話の方向が少しネガティブな方へと傾きそうだったので、ワルツは話題を変えることにしたようだ。


「実は、私も姉と生き別れになっちゃってるのよ」


「そういえばワルツ先生もそのような事を仰っておりましたね。ワルツ先生も、お姉さんを誘拐されたのですか?!」


「いや……お姉ちゃんが誘拐されるようなことがあったら、多分世界が滅びる……」


「えっ?」


「ううん。なんでもない。まぁ、色々あってね……。私が単に故郷に戻れなくなっただけの話よ」


「故郷?ミッドエデンですか?」


「ううん。もっと遠く。歩いても行けないし、飛んでも行けない、ずーっと遠くよ?」


「ずっと遠く……」


 アステリアはワルツの言葉から、彼女の故郷を想像しようとした。歩いても行けず、空を飛んでも行けない場所……。


「……もしや地底ですか?」


「ぶふっ!」

「ちょっと、テレサ?なんでそこで吹くのよ?」


 ワルツはジト目をテレサへと向けるが、テレサはアステリアの言葉が言い得て妙だと思っていたようである。事あるごとに拠点を地下に作ろうとするワルツなのだから、故郷が地底にあってもおかしな話では無い……。そんなことを考えたらしい。


 それからも取り留めの無い会話を交わしていると、まもなくして森が切れる。そこには広大な平野が広がっており、ずっと先の方に、目的地の町の姿が見えたようだ。


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