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14.8-31 試験31

また国名を間違えておったゆえ、修正したのじゃ……。

「先生にテストをどうするか聞いたら、一応、及第点に届いてたから受けなくても良いって言われたよ?」にやぁ


『「「「…………」」」』


「……ちょっと、何で皆でそんな変な顔するのさ?」


 ルシアは頬を膨らませて憤った。彼女にとっては、変な顔をされるような場面には思えなかったからだ。


 対するテレサたちは、この時、皆、同じ事を考えていたようである。……ハイスピア先生は、試飲をして死にたくなかったのだろう、と。


 しかし、そんな事を言えばルシアが尚更に腹を立ててしまうので、テレサは適当に(あしら)うことにしたようだ。


「……失礼な!妾は変な顔などしておらぬのじゃ。これが生来の顔なのじゃ」


「ごめん……その顔、わざだと思ってた」


「…………ま、まぁ、良かったではないか?これ以上、死にn——おっほん。追試が無くなって」


「……テレサちゃん。今、なんか違うことを言おうとしたよね?」


「いいや?」しれっ


 テレサはそれだけ言って、話を強制的に終わらせた。これ以上、ルシアと調合の話をしていると、自分にとばっちりが来る可能性を否定できなかったのだ。これまで彼女が鍛えてきた直感が警鈴を鳴らしていたらしい。


 しかし、どうやら手遅れ——いや、テレサの予想は大きく外れてしまったようだ。


「まぁ、いいや。あ、そうだ!」


「ちょっ?!ま、まさか……や、やめるのじゃ!」


 テレサがすかさず声を上げる。


「だ、ダメよ!ルシア!」


 ワルツも慌ててルシアの事を止めようとした。


『そ、そうですよ!もう今日は休みなんですから、別のことをしましょうよ!』


 ポテンティアも事態を悟って……。


「そ、そういうのは、先生がいるところでやった方が良いと思います!」


 アステリアも否定の言葉を口にした。


 対するルシアは、頭ごなしに否定される形になり、狼狽えが隠せなくなる。


「み、皆揃ってそこまで言うこと無いのに……。っていうか、何をするのか、全部言ってないよね?」


 ルシアが問いかけると、他の4人が同時に返答する。


「「「『調合の練習はダメ!』」」」


「うっ……」


 どうやら図星だったらしい。


 ルシアが人の口に入るものを作ると、例外なく凶悪なものが出来上がることを知っていた4人は、そのままだと、ルシアが調合を強行するような気がしたらしく、慌てて話題を変えることにしたようだ。


「そ、そうだわ?たまには町に行きましょうよ!」

「そ、そうじゃの。公都じゃないところが良いのではないか?」

『では、ここから一番近い、公都以外の町に行ってみましょうか』

「あ、良いですね!」


「…………」ぷくー


 ルシアの頬がフグのごとく、ぷっくりと膨らんだ。


  ◇


 一方その頃、学院の大講義室を拠点にしていた大公ジョセフィーヌは、近衛騎士たちが集めてきた書類を目にして、驚きが隠せない様子だった。


「こ、これは本当なのですか?」


 ジョセフィーヌが見ていた書類はとある報告書。具体的には、隣国エムリンザ帝国における事件に付いて書かれていた。


 彼女が近衛騎士団長のバレストルに問いかけると、バレストルも訝しげな視線を書類に落としながらこう口にする。


「俄には信じられません。しかし、ポテンティア様が仰っていたことと差異はないので、間違いないのでしょう」


「……エムリンザ帝国から貨幣という貨幣がすべて消え去り、城も消えて……皇帝たちも行方不明……。もしかして……私は夢を見ているのでしょうか?」


「残念ながら、夢ではなさそうです。まぁ見方よっては、"悪夢"と言えるのかも知れませんが……」


 ジョセフィーヌに届けられた情報。それは、隣国のエムリンザ帝国が間もなく滅ぶというものだった。


 報告書に書かれていた情報は、以前、ポテンティアから受けた報告と同じだったのだが、別の情報経路から改めて証拠を見せられることになったジョセフィーヌは戸惑いが隠せなかったようだ。本当にワルツたちは、気分一つで、大国を一瞬で滅ぼせるほどの力を持っている……。国のトップたるジョセフィーヌは、国の方向性を決める大きな岐路に立たされていると言えた。


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