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14.8-29 試験29

 追試を受ける前の待ち時間。一行の姿は、自分たちの教室の中にあった。


「……正直言って、妾には理解出来ぬ。倫理のテストというものは、嘘を吐けば点数が高くなるのか?そんな事が許されて良いのか?」


 ケアレスミスはないのに1人だけ点数が低かったテレサは、嘆きに嘆いていた。彼女には世界の理不尽さが受け入れられなかったのだ。


「金貨が落ちておったなら、普通、そのまま拾うじゃろ?ア嬢?お主、憲兵のところに金貨を届けたことはあるかの?お主なら、間違いなく、そのまま喜んで稲荷寿司屋に走って行くはずなのじゃ!」


「いや別に、お金に困ってないから、そんなことしないし」


「じゃぁ、お金に困っておったら?もう何ヶ月も寿司どころかまともな食事にありつけない中で、目の前に金貨と、そして稲荷寿司屋があるのじゃ。それでもお主、ネコババせぬと言えるか?」


「……倫理のテストって、そういう内容だったっけ?」


「例え、今にも死にそうな状況でも、法に魂を売って自分の本心を偽り、甘んじて死を受け入れる……。それが倫理の正体なのじゃ!」


「そ、そうなのかなぁ……」


「いや、絶対違うでしょ。騙されちゃダメよ?ルシア」


 ワルツは思わず突っ込んだ。このままだと、ルシアだけでなく、アステリア辺りも悪い影響を受けると思ったらしい。


「テレサの場合は、ネコババが云々じゃなくて、まず猫を被る所から始めるべきね」


「猫を被る……じゃと?」


「そこ驚くような所じゃないわよ?あと、猫じゃなくて、狐を被りたいとか思っているの見え見えだからね?まぁ、どうでもいいけど」


 ワルツはテレサを適当に(あしら)いながら、諦めたような表情を浮かべた。狐の話をすると、テレサがとても良い笑顔を浮かべ始めたからだ。


 ゆえに、ワルツは、テレサの事を放置し、彼女以外の者たちに注意を向けた。テストが始まるまであと10分ほどだったためか、皆、同じ轍を踏まぬよう、それぞれ特徴的なテスト対策をしていたようだ。


 例えばアステリアは、自分の名前を何度もノートに書いていたようである。彼女は中間試験において、解答用紙に名前を書くのを失念したからだ。


 例えばポテンティアは、白紙を何度もひっくり返すという反復行動を繰り返していた。彼の場合は解答用紙に裏面がある事に気付かなかったからだ。


 その様子を見て、ワルツが一言。


「……不毛ね」


 ケアレスミスは訓練でどうにかなるものなのか。むしろ、他のケアレスミスが生まれないよう、最善の注意を払いながらテストを受けることに注力すべきなのではないか……。そんな言葉がワルツの心の中に浮かび上がってきていたようだが、彼女も彼女でテストがあるので、ひとまず下手に指摘をするのはやめ、自分のタスクを優先してこなすことにしたようだ。


 とは言っても、ワルツがすべきテスト勉強は存在しない。彼女が赤点を取ったのは数学なわけだが、彼女は数学が分からなかったわけではないからだ。


 彼女が抱えていた問題は、テストの設問が勝手に解けてしまうことだった。考えるよりも先に答えが出てしまうので、数学のテストに必要な中間の経緯が書けなかったのである。


 ゆえに、彼女に出来る事があるとすれば、自身の機能を止める事。自動的に計算する能力を一時的に停止し、思考力だけで計算を行うというわけだ。


 結果、ワルツは自身の一部能力を停止した。


   ブツンッ……


「…………ほわー」


『「「「……えっ?」」」』


 ワルツの目の前に、これまでに見たことも無いような綺麗な花畑が広がった。

完!


……と書ける日はいつになるのか……。

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