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14.8-28 試験28

 ワルツたちがハイスピアから面談を受けた次の日から、学院は5日間ほど休みに入ることになっていた。ミッドエデンと違い週の概念が存在しない学院では、元々定休というものが存在せず、テストがあるごとに5日間の休みに入るか、あるいは夏と冬に長い休みがある程度。それ以外の休みは、個人が勝手に取るという、不定休制を採用していたのである。ようするに、テストで合格して単位さえ取れれば、進級も卒業も出来る、というわけである。


 ちなみにテストに落ちた場合はどうなるのかというと、選択肢は2つある。落第か、それが嫌なら休みの期間中に追試を受けるかのどちらかだ。


「す、数学……」ずーん

「1つずつズレてる……」ずーん

「倫理って何ぞ?」しれっ

「名前……名前さえ書けば……」ずーん

『後ろにも設問があったとは……』ずーん


 テストの答案用紙を返されたワルツたちは、絶望的な表情を浮かべていた。皆、ケアレスミスで点数が低かったからだ。まぁ、一部には本当に点数が低い者もいたようだが、まぁ、彼女の事は置いておこう。


 そんな生徒たちを前に、ハイスピアは言った。


「皆さんは決して悪い点数を取っている訳ではありません。ケアレスミスさえ無くせば、初等部の中でもトップクラスの成績になるはずです。ですが、現状だと合格点に達していないので、落第させるしかありません。明日からの5日間の休み期間中に頑張って単位を取って下さい」


 クラスの全員が、何かしらの教科で合格点以下——つまり赤点を取るというのは、本来、担当教員としては恥ずべき事だった。教え方が下手だということの証左だからだ。ワルツたちの場合は、入学してから日が浅いので、高得点を取れていること自体は驚愕に値する事だったのだが、それでも、低かったテストの点数がほぼ0点というのは、ハイスピアに責任がないとは言えないことだったのである。


 しかし、ハイスピアに落ち込んだ様子は無い。たとえ第三者から責任を追求されようとも、彼女は今回の赤点を重大なことだとは思っていなかったからだ。


「大丈夫です。皆さんなら絶対に出来ます!」


 その言葉通り、ハイスピアは信じていたのである。ワルツたちなら赤点を簡単に乗り越えられるはずだ、と。


 ちなみに、成績の良かった学生たちばかりを集めた特別教室にワルツたちが編入されるという話は無くなっている。学院長のマグネアたちが制定したルールに照らし合わせると、ワルツたちは点数が低すぎて、編入条件を満たさないからだ。


 とはいえ、特別教室の話自体は無くなったわけではない。ミレニアなど優秀な学生たちを選抜して、休み明けからクラスが作られることになっていた。それも、ワルツたちの教室の真隣に。


 ようするに、マグネアたちは、ワルツたちのことをすぐに特別教室に配属させるのではなく、彼女たちが学院に(こな)れてきたときに、彼女たちを特別教室に編入しようと考えていたのだ。ワルツたちの学力や知識、技術を考えるなら、一般のクラスに編入するというのは、技術を広めるという意味でももったいなさ過ぎるので、将来有望な若者たちに知識を共有しようと考えたのである。


 マグネアやハイスピアとしては、本当ならワルツたちに良い点数を取ってもらい、特別教室の創設当初から所属して欲しいと考えていたようである。しかし、現状のテストの点数を鑑みるに、手放しで受け入れる訳にはいかないので、一先ずは諦めることにしたらしい。なにしろ、ワルツたちが卒業するまでは十分に時間があるので、慌てて対応する必要はないのだから。


 対するワルツたちは、特別教室なるものには興味が無かったので、テストの点数が低くて特別教室に編入されなくとも、ショックは受けていなかったようである。それよりも何よりも、彼女たちがショックを受けていたのは、テストの点数そのもの。


 それゆえか、ワルツの声は暗い。


「先生……」


 今にも消えてしまいそうな声で、ワルツがハイスピアに問いかける。


「はい、何でしょう?ワルツ先生」


「追試は何度も受けられるのでしょうか……?」


「一応、何度も受ける事は出来ますが、1日に1回が限度です。休み期間中の5日間の間に及第点を取れれば、単位を取ることが出来ます。まぁ、皆さんの場合は、ケアレスミスが主なので、わざわざ補講をする必要無いでしょう」


「……先生、ダメだった場合は、どうなるのでしょうか?」


「……ワルツ先生。そのことを考える必要はありません。ワルツ先生も、皆さんも、必ず及第点を取れると私は信じていますので」


「先生……(私……数学の解答がどうしても書けないのですが……)」げっそり


「あ、ただし、テレサさんは、ちゃんと倫理の勉強をするように。あなたの倫理教科だけは、ケアレスミスで点数が低かったわけではないので」


「うっ……も、もうダメかも知れぬ……」げっそり


 こうして、一部の者たちにどうにもならない絶望を感じさせながら、ワルツたちの追試期間が幕を上げた。


過去問とやらに出会すまで、自力でテストに挑んで赤点ギリギリを取っていた頃が懐かしいのじゃ。

過去問で高得点を取ったところで、何の力にもならぬ……というのはただの僻みかの。

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