6前-17 嵐編3
・・・皆が寝静まった、その日の深夜。
王城の議長室に集う3人の影があった・・・。
「・・・阻止できないのですか〜?」
「正直言って、芳しくない・・・」
『姉さんは何か言ってないの?』
「駄目だ・・・今は完全にスダンドアローン状態で、機動装甲の修復中だから、会話すらできない・・・」
『何でこのタイミングで・・・』
「・・・仕方がありませんね。どうにか名ばかりになるよう、話を進めていくしか無いでしょう」
「最悪、姉貴が戻ってきてから廃案にするとか、代替案を出すって方向に持っていくか・・・」
「そうですね〜。現状、この件を避けられないのなら、立案の際にリスクを極力減らすよう図らうか、事後でどうにかする、という方向で話を進めていきましょう」
・・・
・・・翌日。
この日は、朝から雨が降っていた。
それもただの雨ではない。
雷が鳴り響き、風は吹き荒れ、気温も低かった。
まるで、これから起きることの予兆のように・・・。
とはいえ、空が見えない地下大工房では関係のない話だった。
・・・それでも、目に見えない嵐は、工房の中にも吹き荒れようとしていたのである。
「ルシア・・・」
今日の昼食も、稲荷寿司の食べ比べをしていたルシアの所に、真剣な顔をしたアトラスがやって来る。
「・・・?!」
そんなアトラスに、耳と尻尾をピーン!と伸ばして、緊張するルシア。
「(な、何?!もしかして・・・こ、これって・・・)」
・・・どういうわけか、ルシアが顔を真赤にしていると、
「・・・ごめん、議員たちを止められなかった・・・」
アトラスは彼女の前で・・・土下座した。
「俺のせいだ・・・」
「・・・」
そんなアトラスの姿を見て、心底残念そうな表情を見せるルシア。
その表情が姉に似てきているのは・・・気のせいだろう。
「ねぇ、アトラスくん・・・何の話?」
「・・・とりあえず、議長室まで来てくれ。詳しい話はそこでする」
その言葉だけ残すと、アトラスは急いで王城へと戻っていった。
・・・どうやら、議員たちへの根回しはまだ続いているようである。
「?」
全く何が起こっているのか分からない様子のルシア。
ともあれ、議長室に行けば説明を受けられるらしいので、目の前の稲荷寿司を胃袋の中に方付けてから、王城へと向かうことにした。
コンコン
「入るよー?」
王城には普段から議長専属のメイドとして働いているという体でやってきていたので、この日もルシアは半分普段着化しているメイド服を着込んでいた。
『おぉ・・・』
議長室に入ると、コルテックスの他に複数の議員がルシアの到着を待ち構えており、歓声に近い声を上げる。
「・・・!」
これまでのルシアは、議長室に来て何度か議員たちと顔を合わせていたので、議員がいることで緊張することはなかった。
しかしそれは、議員の注意が自分ではなく、コルテックスやテレサに向いていたからであった。
・・・しかし今、複数の議員たちの視線は全て自分に向いており、人生で初めて、他者の視線による緊張を味わう事になったのである。
「これ、兄等!妾のメイドにそんな血走った視線を向けるでない!」
体面上、テレサの皮を被ったコルテックス(?)が、そんなルシアを擁護しようと声を上げる。
「しかし、テレサ様。ルシア様はミッドエデンの宝も同然。希望の視線を向けてしまうのも致し方ありませんぞ?」
「左様。この国で我らの杞憂を打ち払うことが出来るのはルシア様だけだろう。ならば、期待を持ってしまうのは道理である」
「ふむ・・・狐人か・・・。因縁じみたものを感じるのは儂の気のせいじゃろうか・・・」
「今はまだ、正式に決まったわけではないじゃろう。せめてそれまでは、静かにしておけぬのか?」
コルテックスの言葉に、考えこむ議員たち。
そんな彼らは、これからルシアの周りで起こるだろう様々な出来事のことを思ったのか、テレサの忠告を飲むことにしたようである。
「では、テレサ議長。本日の議会へのルシア様召喚の件、よろしくお願いする」
最後に議長室を後にした議員がそんな言葉を残すと、部屋の扉は静かに閉ざされた・・・。
「・・・ねぇ、何があったの?コルちゃん」
もう少しで息が詰まって、どうにかなってしまうのではないか、と思っていたルシアが、議員たちが居なくなったことで開放されて、吐き出すように疑問の声を上げた。
「・・・」
ルシアの言葉に、押し黙るコルテックス。
・・・すると、
「・・・すまぬ・・・本当にすまぬ、ルシア嬢・・・」
そう言いながら、彼女・・・テレサは泣きだした。
「あ・・・間違えてごめんね。テレサちゃんだったんだね・・・」
「いや、それはいいのじゃ・・・。問題はルシア嬢・・・お主のことじゃ・・・」
「何があったの?」
「うむ・・・心して聞くがよい・・・」
そしてテレサは涙と鼻水を近くにあった廃紙で拭いた後・・・ゼロではなかった可能性の話を口にした。
「・・・ルシア嬢。お主は・・・ミッドエデンの勇者として認定されることになったのじゃ・・・」
「・・・え?」
テレサの言葉が理解できない様子のルシア。
「今、コルとアトラスが、議員たちに対して根回しを進めてくれておるが、恐らく、お主の勇者認定の話を無かったことにはできぬじゃろう・・・」
「・・・私が・・・勇者・・・?」
「うむ。どうやら、お主が外にある巨大なサイコロを転移させた際の姿を、見た者がおったらしくてのう・・・」
・・・一言で言うなら、ワルツ達がミッドエデン全体に配備した、転移魔法連絡網の弊害、と言えるだろうか。
誰かが異常な光景を見かけただけで、その情報は瞬く間に国全体ヘと広がってしまうのである。
恐らく、ウエストフォートレスで、火山に向かって魔法を行使していたルシアの姿を見た者がいるのだろう。
あるいは、彼女が上空に作り出した小さな太陽を見た者がいるのかもしれない。
それとも、エネルギアに乗り込む姿を、サウスフォートレス沖で無人島を吹き飛ばした姿を、王都を奪還するために大出力の魔法を行使した姿を・・・見た者がいたとしてもおかしくはなかった。
・・・要するに、時間の問題だったのである。
何より問題は、ワルツがいないこのタイミングで、勇者ルシアを認定する法案が提起されることになったことだろう。
もしも彼女がいたなら、プレッシャーを利用して、議会を捻じ曲げることも簡単だったのである。
しかし今、ワルツはアルクの村でホログラムの修復を行っているのである。
彼女と連絡が取れない以上、テレサにもコルテックスにも誰にもどうすることも出来なかった・・・。
「・・・そっかぁ・・・」
深い溜息とともに、自分が置かれた状況を理解するルシア。
色々と湧き上がってくる疑問のために頭の中が真っ白になりかけていたが、そもそも根本的なことが分からなかったので、とりあえずその疑問を口にしてみた。
「・・・勇者になったらどんなことをしなければならないの?」
「そうじゃのう・・・。嘗てのミッドエデン王国にいたという勇者は、国を代表して周辺諸国との交流を図ったり、軍部の兵士達の戦力増強を図るために指南したり、魔王や魔神と戦ったりしておったようじゃのう・・・」
「ふーん・・・じゃぁ、私・・・お姉ちゃんの敵になっちゃうのかなぁ」
「・・・」
「もちろん、勇者になっても、お姉ちゃんとは戦わないよ?」
「・・・そう言うと思っていたのじゃ」
そう言いながら、苦しげな表情の中に笑みを浮かべるテレサ。
「それにのう?今のところ、魔神から国を救ったという伝記はあっても、魔神を倒したとは伝えられておらぬのじゃ。勇者になっても、恐らくは、ワルツとの戦闘を避けられぬという状況には陥らぬはずなのじゃ」
「そっかぁ・・・うん、よかった」
その後もルシアは、ミッドエデンにいたという古の勇者の話を、テレサから教わるのであった。
「・・・会議は3時からじゃ。もう、メイド服を着なくとも、王城の中を自由に歩き回ってもよいぞ?」
「・・・うん。でも、この服、お姉ちゃんがプレゼントしてくれたものだから・・・」
「そうか・・・うむ。ならば、その格好のままで良いから、一緒に議会に来てくれぬかのう?」
「うん。仕方ないよね?」
「・・・不甲斐ない妾たちを許して欲しいのじゃ・・・」
「本当は喜ばしいことじゃないの?勇者って言ったら、国の代表なんでしょ?」
「うむ。じゃが、勇者になると嫌でも戦いの中に身を置かなくてはならないのじゃ。言い換えるなら、国が創りだした、生け贄のようなものじゃな。・・・妾は、お主をそんなものにさせたくは無かったのじゃ・・・」
「そっか・・・うん。大丈夫。なんとかなるよ!」
そう言って満面の笑みを浮かべたルシアは、テレサの頭に手を置いて、撫でた。
「ふっ・・・これではまるで、妾が逆に元気づけられているみたいではないかのう?」
「別にいいんじゃない?この際、テレサちゃんも一緒に勇者になる?」
「そうじゃな・・・考えておくのじゃ。・・・今に見ておるのじゃルシア嬢?妾やコルたちの戦いはこれからなのじゃからのう!」
「うん!私も頑張るね!」
・・・そして、時間通り議会は開かれた。
結果・・・議会の決議を避けられなかったがために、ルシアは正式にミッドエデン代表の勇者となる運びになったのである・・・。
なお、冒頭の3名(+1名)は、
・「コルテックス」
・「アトラス」
・「テンポ」
・『ストレラ』
なのじゃ。




