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14.8-27 試験27

 ハイスピアの問いかけに、ワルツもポテンティアも明確な返答は返さず、肩を竦めたり、苦笑を浮かべたり……。2人揃って、無言の肯定を行った。前例として、女神を語るデプレクサと戦った経験があったので、今回も似たような展開になるという予想があったらしい。


 ルシアやテレサたちも同じで、ワルツとポテンティアの態度を否定する様子は無い。彼女たちは、ワルツが決めた方針に従うつもりでいて、例え神(?)と戦うことになろうとも、どこまでもワルツに付き合うつもりでいたのだ。


 その他、アステリアには事情が分からなかったらしく、首を傾げていたようである。彼女に驚いたような様子が無いところ見るに、どうやら、意味が理解できていないらしい。彼女は最近まで奴隷をしていたこともあり、教会とは繋がりが殆ど無く、宗教や神といったものについて、そもそもよく分かっていないのだろう。


 その結果、教室の中では、ハイスピアだけが驚いているという状況になっていた。


「そんなこと……」


 そんなことが許されるのか……。神(?)の思惑に反して、技術を広めるなど、やって良いことなのか……。直前のハイスピアの思考と今の思考とを比べれば、180度以上異なっていると言えた。


 それが滑稽に見えたのか、ワルツが指摘する。


「じゃぁ、広めるのをやめますか?」


 ワルツが問いかけると、ハイスピアはパタリと椅子に座って考え込み始めた。ただ技術を教えて欲しいという理由で切り出した話が、気付くと神(?)に楯突くという内容になってしまい、話の展開が飲み込めず困惑してしまったのである。いったい何故、こんなことになってしまったのか……。


 そんな疑問に襲われていたハイスピアに対し、ワルツは畳み掛けるかのように、こう口にする。


「疑問には思われないですか?世界には、知識としても技術としても活用可能な自然現象が溢れているというのに、人の長い歴史の中で、活用された事実も記録も、まったくと言って良いほど存在しないのです。これは明らかに異常なことです。誰かが見えない力で抑え込んでいるから、と考えるのが自然ではありませんか?それこそ、神様のような存在によって」


 ワルツの言葉を聞いたハイスピアは、ますます眉間の皺を深くさせた。技術が欲しいと思う反面、自分たちが信じる神に刃向かうようなことはしたくない……。そのジレンマに挟まれて、どうすべきかを悩んでしまったのだ。


 ただ、彼女は研究者。知識欲に対し素直に生きている種類の人間——正確にはエルフである。知識という名の悪魔に対し、疾うの昔に魂を売り渡していたので、ハイスピア1人だけなら、彼女がワルツたちの話に戸惑うような事は無いはずだった。


 それでも彼女が悩んだ理由。それは、彼女が研究者であるのと同時に、教育者でもあったためだ。自分だけが破滅の道を歩むならまだしも、学生たちを巻き込むというのは、彼女にとって不本意だったのだ。


 ゆえに、彼女はワルツの発言に悩んだのである。……欲望に素直になり、ワルツたちから技術を学ぶか。あるいは生徒たちを守りたい一心で、技術とは距離を取るか……。


 そんなハイスピアの疑問は、唐突に終わりを迎えることになる。彼女は何かに気付いたらしく、パンと手を合わせて、明るい表情を浮かべたのだ。


「そうです!」


「はい?」


「神様がいるかどうか、学術的には立証されていないのですから、悩むだけ無駄って事ですよ。実際に神様を観測したときに考えれば良いんです」


 どうやらハイスピアは、考えるのをやめたらしい。というよりも、欲望に対して素直になる事にした、と言うべきか。


 開き直って思考を停止したハイスピアを前に、ここまで本気で悩んでいたワルツは、逆に呆気にとられていたらしく、ぽかーんと口を開けていたようである。そんな彼女は、すぐに復帰すると、確認の言葉を追加した。


「本当にそれで良いのですか?それって、いわゆる考え無し、ってやつですよね?」


「少なくとも、私はそれで良いと思っています。学院長には私の方から説明しましょう」


「まぁ、ハイスピア先生がそれで良いと仰るなら……」


 ワルツは微妙そうな表情を浮かべながらも、ハイスピアの考えを受け入れることにしたようである。


 そんなワルツには、もしもハイスピアのことを説得できなかった場合に、強制的に彼女の事を説き伏せることができる"殺し文句"を持っていたようだ。だが、ハイスピアが納得した以上、その言葉は心に留めておくことにしたようである。


 ……今、ワルツたちがいる学院のような学校が、なぜ世界に普遍的に存在していないのかを。


文明が進んでおらぬゆえに学校が無いと思ったかの?

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