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14.8-25 試験25

『はい、先生!僕にアイディアがあるのですがよろしいでしょうか?』


「「「「「……アイディア?」」」」」


 ハイスピアだけでなく、その場にいた全員が反応する。


『そうです。アイディアです。このクラスのメンバーが浮かずに、そして目を付けられ難くすればよろしいのですよね?でしたら、答えは単純。葉を隠すなら森の中ですよ』


 ポテンティアの説明に、ワルツは目を見開いた。どうやら彼女はポテンティアの言いたいことが分かったらしい。


「……なるほど。つまり貴方は、森の中で授業をすべきだ、って言いたい訳ね?」


『いえ違います』


 ワルツの解答に、ポテンティアはガックリと項垂れる。ルシアやテレサも同じだ。唯一素直に頷いていたのは、アステリアくらいのものだろう。


 ハイスピアも、ポテンティアの言いたいことが分かっていたようだ。だが、彼女は敢えて口を開かなかった。彼女が察した言葉。それは、彼女の口から直接言及するのは憚られることだったからだ。


 ゆえに、ハイスピアが黙ってポテンティアの言葉を待っていると、ショック(?)から復帰したポテンティアが顔を上げて、具体的なアイディアの内容を口にし始めた。


『えっとですね……つまり、他の方々にもある程度の知識や技術というものを解放して、僕らが目立ちにくくなるようにすれば良いと思うのです』


 ようするに、ポテンティアは、自分たちと同じような知識を持っている者たちを増やして、自分たちだけが目立つ現状を軽減すればどうか、というのだ。


 ポテンティアのその言葉を聞いたワルツは「まぁ、知ってたけど」と本当かどうか分からない発言を口にしながら、頬に手を当てて指摘する。


「それは、ちょっと危険じゃないかって思うんだけど?下手をしなくても、この国の技術力が、数年から数百年単位で加速するわよね?制御も倫理も存在しない知識や技術っていうのは、危険極まりないものなんだから」


『それを仰るなら、ミッドエデンは既に手遅れだと思うのですが?』


「ミッドエデンにはコルテックスたちがいるんだから、問題は無いわ?管理できるように彼女たちを……まぁ、そういうことよ?」


 ミッドエデンの技術を管理するための絶対的な権力者としてコルテックスたちを作った……。ワルツはその一言を口にしようとして、途中から誤魔化した。ハイスピアに聞かれると、また面倒な事になると思ったらしい。


 対するポテンティアとしては、レストフェン大公国にもコルテックスたちのようなホムンクルスを置くというのはどうか、という提案をしたかったようである。しかし、彼はその提案を口には出さずに飲み込んだ。レストフェン大公国にコルテックスたちのような存在を立てるというのは、つまり、国を乗っ取るということ。大公ジョセフィーヌが生きている以上、彼女に大公の座を降りてもらうことに他ならなかったのだ。


『……この国に技術の供与を行ったとして、暴走しないよう適切に制御する方法は無いのでしょうか?』


 答えが無いだろうと予想しながら、ポテンティアはワルツに——あるいはその場にいた全員に対して問いかけた。


 それに対し返答したのは、ここまで話を聞いているだけだったハイスピアだ。


「この学院内の限られた教員、生徒たちにしか、情報開示されないというのは如何でしょう?自動杖みたいに」


 ハイスピアの返答に、ワルツは首を横に振る。


「先生。技術っていうものは、分解されて解析されれば、誰でも盗むことが出来るんです。自動杖だって同じです。然るべき場所で、然るべき機材を使って、然るべき方法で解析すれば、コピー品を作る事も可能なはずです」


「そ、それならなぜ——」


「なぜ、ミッドエデンは、自動杖の技術を盗もうとしないか、ですか?先ほども言いましたとおり、制御されているからです。技術が出ていくことも、入ってくることも、すべてミッドエデンの上層部で管理しているので、理由も無く他国から盗むようなことはしないのです。ミッドエデンとて、国内で技術の氾濫があれば、内乱や戦争などの戦火に巻き込まれてしまいますから、共有すべき情報、してはならない情報というものを細かく精査しているのです」


 ゆえに、レストフェン大公国でも技術の管理ができるのなら、技術供与をしても良い……。そんな副音声に乗せたワルツの言葉に、ハイスピアは気付いていたようだ。


 だが、一介の教員でしかないハイスピアにとってはどうすることもできず……。彼女は消沈したような表情を浮かべた。


 その一報、ポテンティアは、未だ自分のプラン——葉を隠すなら森の中作戦(?)を諦めていなかったようである。彼は技術管理の仕方について、新たなアイディアを提案した。



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