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14.8-23 試験23

「ハイスピア先生?ハイスピア先生!」


「はっ?!」


 現実逃避していたハイスピアが、我に返る。


「す、すみません!何でしょう?」


「はぁ……。ハイスピア先生。あなたは時々、心ここにあらずなことがあります。あなたの所に新しい生徒たちが来てからは特に顕著です。今は重要な会議をしている最中なのですが、以降、改めるように」


「も、申し訳ございません……」


「それで、どうだったのです?あなたのクラスの生徒は」


 副音声で、ワルツたちのテストの点数はどうだったのか、と問いかける学院長のマグネア。


 対するハイスピアは、「うーん……」と険しい表情を浮かべながら、結論を最初に口にした。


「正直言って、良いとは言えない点数でした」


「悪かったのですか?」


「悪いと言いますか……極端な試験結果なのです。例えば、ワルツさん。彼女の場合は、数学のテストが結果しか書かれておらず、全問正解していましたが、点数としては0点です」


「はあ……」


「例えばルシアさん。彼女場合は、歴史のテストの欄が、先頭から一個ずつズレていて、点数は5点。あと、薬学の実技試験では、謎の調合をして0点」


「0点?そんなにも難しい調合だったのですか?確か、傷薬などを作る試験内容だったと記憶していますが……」


「えぇ。単に薬草をすり潰して、水に溶かすだけの簡単な試験です。しかし、彼女が作ったのは、記憶消去薬と言いますか、タイムスリップ薬と言いますか……いずれにしても、試飲した私の1時間ほどの記憶を消し飛ばすようなトンデモない薬を作ってしまったので、0点としました」


「……ちょっと何を言っているのか分からなくなってきましたね」


「えぇ、私も分かりません。あと、ポテンティアくんの場合は、表面しか回答が書かれておらず、裏面は白紙状態だったので、全教科50点」


「なんですか、その良くありがちなケアレスミスは……」


「アステリアさんは、全問正解でしたが、どの教科も名前が書かれていませんでしたので0点」


「それはむしろ、ハイスピア先生が、ちゃんと説明されなかったことが原因ではないのですか?」


「いえ、説明しました。ほかの4人は全員ともに名前を書いていましたし……」


「……それは、問題児だらけですね」


「ただ、問題があった教科以外は、4人とも100点なのですよ。テストの半分しか回答していなかったポテンティアくんも、記入していた部分は全問正解なので、恐らく裏面も解答させれば、100点に限りなく近い点数を取るはずです」


「なるほど。だとすると、非常に勿体ないですね。皆さん、入学してからまだ1週間しか経っていないというのに、中間試験で高得点を狙えるほどの実力を持っているのですから、優秀なのは間違いないのでしょう」


 マグネアはハイスピアの報告を聞いて、ワルツたちを特別教室に編入するかどうかを悩んだ。話を聞く限り、全員ともに癖があるものの、皆、特別教室に所属するほかの生徒たちに後れを取るとは思えなかったからだ。


 そんな中で、彼女はふと、思い至る、


「そういえば、あなたのクラスの生徒は、5人いましたよね?最後の1人はどうだったのですか?」


「あぁ、テレサさんですか。彼女の場合は、100点のテストは無かったですが、平均して90点ほどの点数を取っていましたので、優秀と言えると思います。ただし、1教科を除いて、ですが」


「1教科?何ですか?」


「……倫理です」


 その教科名を聞いた瞬間、マグネアは頭を抱えた。倫理がダメというのは、つまり人間としてダメということなのではないか……。そんなことを考えたらしい。


 誰でも簡単に100点が取れるようなテストの点数が悪いというのは、いったいどういうことなのか……。そんな疑問を抱いたマグネアは、ハイスピアに対してより詳細に問いかけた。


「彼女はいったい、どんな解答をしたのです?」


「そうですね……たとえば、目の前に銀貨(1000ゴールド)が落ちている時、その貨幣をどうするか、という設問に対し、彼女の答えは、『誰にも見られていなければ拾う。もしも近くに人がいれば、銀貨を踏みつけて隠して、人がいなくなったタイミングで拾う。シュレディンガーの猫と同じ。観測者がいなければ、誰も困らない』などと喩えがよく分からない解答をしています」


「…………」


「あと、危険な魔法実験を行うとき、第一に優先すべき事は何か、という設問に対しては『誰かに成果を先取りされる前に、自分が成果を出す。安全は二の次。失われた時間は戻らない』などと書いておりました」


「……素直ですね」


「えぇ、とても素直です。まったくもって」


 ハイスピアが首肯した後、会議室には、得も言われぬ重い雰囲気が漂った。どうやら皆、テレサをフォローする言葉が見つからなかったようだ。


階段前で重い荷物を持って困っている高齢者を見つけたらどうするか?

 →どうもしない(自分も階段を上がれない自信があるから)


満席の乗合馬車で高齢者が乗ってきたらどうするか?

 →放っておく(下手に動くと自分の体重で馬車の床に穴が開く可能性があるから)


迷っている人に道を聞かれたらどうするか?

 →全力で逃げる(刺客の可能性があるから)


……もうダメかも知れぬ。

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