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14.8-21 試験21

『……はっ?!』


 ワルツは、ふと我に返る。彼女は2つのことを思い出したのだ。


 1つは周囲の者たちに見られているという事実である。言わずもがな、彼女にとっては、周囲の者たちから注目を浴びるというのは恥ずかしい事。今まで勢いに任せて簡易機動装甲を披露していたものの、急に我に返って、羞恥心に襲われてしまったのである。


 そして彼女が思い出したもう1つのことは、今が魔法の試験の時間中であるということである。昨日、作り始めてから、今日に至るまで、時間が無かったので簡易機動装甲に武器は搭載されておらず、攻撃は結局"投石"という至極物理的なものになってしまったのだ。一応、そこまでは織り込み済みで、迷うことは無かったのだが、問題はここから先だ。いかにしてハイスピアに採点して貰うのか、ワルツはその言い訳を口にしなければならなかったのである。


 その内、前者は、周囲の者たちの事をジャガイモかタマネギだと思い込む事で、どうにかスルーしようとするが、後者については放置するわけにもいかず……。ワルツは一旦、簡易機動装甲を解いて、ハイスピアへと向き合った。


   ガション!ガション!ガコンッ……


「ふぅ……というわけで、先生!身体強化の魔法でした!」しれっ


 ワルツはツッコミどころ満載の言い訳を口にする。誰がどう見ても、ワルツの投石は魔法には見えないというのに、それでもワルツは魔法だと言い切るつもりらしい。それがワルツの作戦だからだ。結果さえ出せば、何でも良いだろう……。そんなことを考えているらしい。


 対するハイスピアは、ワルツを前に、何やら怪訝そうな表情を浮かべていたようだ。やはり驚き耐性のようなものが身に付きつつあったらしい。彼女は深刻そうな視線をワルツ——正確には、ワルツの背中にあった簡易機動装甲へと向け続けた。それも、ジィッと。まるで視線だけで、バックパックに穴を開けるがごとく。


「せ、先生……?」


 ワルツは段々と居心地が悪くなってくる。ハイスピアの視線の先にあるものは、金属の塊のような簡易装甲だったものの、見つめられているのが自分自身のように思えてならなかったのだ。


 結果、ワルツは挙動不審になる。ハイスピアの視線と自分の視線が交差しないよう、ハイスピアの視線を手で覆ったり、後ろを振り向いて顔から耳に掛けてを真っ赤にしたり、挙げ句の果てにはその場で小さく縮こまったり……。


「お姉ちゃん……何してるの?」


 ワルツの奇行を前に、ルシアは思わず問いかけた。


「……簡単に言うなら、穴があったら入りたい、という気分を実演してるところ?」


「あ、うん……。言いたいことは何となく分かるよ?ジィッと見られるのが恥ずかしいんだよね?でも……変な行動をしてると、余計に視線を集めちゃうと思うけど……」


「っ!」


 ワルツは慌てて顔を上げた。すると、ルシアが言っていた通り、周囲の者たちが自分に向けられている事に気付き、彼女は再び顔を真っ赤にして俯いてしまう。


 その様子はまるで、先生に怒られている生徒のようだった。別に怒られていたわけではないが、ワルツが感じていた心的負荷は、廊下に立たつことを言い渡された生徒のどん底な気分以下の気分だと言えた。


「(もう帰りたい……)」


 ワルツの精神が限界を迎えようとした、そんな時。ここまで黙っていたハイスピアが、ようやく口を開く。


「……ワルツさん。それに皆さんも」


 自分だけでなく、"皆さん"と呼びかけるハイスピアを前に、ワルツの表情はフワリと明るくなった。自分だけがやり玉に挙げられるわけではない事を、彼女は悟ったのだ。皆でやれば怖くない、というやつだろうか。


 しかし、ハイスピアから飛んできた言葉を前に、彼女たちの表情は再び曇ることになる。


「お疲れ様でした。テストはこれで終わりです。結果が出るのは明日になると思いますが……その時に、皆さんとは、個別に面談することになると思います」


『「「「「えっ」」」」』


 ワルツたちの声が重なる。皆、面談が必要になるとは思っていなかった様子で、お互いに顔を見合わせたり、唖然としたり……。


 そんな5人の表情が、総じて青かったのは、皆、まさかの落第を危惧していたから、なのかもしれない。


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