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14.8-20 試験20

 的の前に立ったワルツは悩んでいた。いまから自分がしようとしていることは、魔法の試験として異質極まりない事だと分かっていたのだ。ゆえに、恥を覚悟でこのまま試験を実施しても良いのか、あるいはやめておくべきなのかを悩んだのだ。


 だが、ここまできて何もせずに白旗を上げるというのは、やって恥を掻くよりも、遙かに赤っ恥だとも理解していたようである。ゆえに彼女に残された選択肢はただ一つ。もう、何を言われても気にせずに、全力で魔法のテストに打ち込む事だけだった。


「……やります!」キリッ


 ワルツは覚悟を決めた。その様子を見たルシアがゴクリと喉を鳴らす。姉が本気になると、碌でもないことしか起こらないことを知っていたからだ。


 ゆえに、ルシアはワルツの事を止めようかどうか悩んだようである。ルシアとテレサと協力すれば、ワルツが魔法を使ったように見せかけることは容易なこと。ワルツが"魔法もどき"を無理矢理演じる必要はないのだ。無茶をしてカオスなことになるくらいなら止めた方がいいのではないか……。


 そんな考えを視線に乗せて、ルシアがテレサの方を振り向くと、テレサもルシアの視線に気付いたらしく、彼女はチラリとルシアの方を向いた。しかし、どうやらテレサはルシアとは逆の考えを持っていたらしい。彼女は首を横に振ることで、暗にこう言っていたようである。……今回は静かに見守るべきだ、と。


 その結果、ルシアが戸惑い気味の視線をワルツへと向けると、早速、ワルツの方で異変が生じる。彼女が背負っていた金属塊のようなものが——、


   ウィィィィンッ!!


——と甲高い音を上げながら変形を始めたのだ。


 ワルツが背負っていた金属塊は、まるで、精密に組み合わされたパズルを解くようにして形を変えていった。いったいどこに体積を隠していたのかは不明だが、もともとの金属塊の体積よりも遙かに大きな構造体が、ワルツの背中全体、胴体、さらには腕や足まで囲っていく。そしてついには、彼女の身体をすべて包み込んでしまった。


 その様子を見ていたハイスピアが、ポツリと感想を口にした。


「鎧……」


 ハイスピアから見たワルツの姿は、まさしく全身に甲冑を着込んでいるかのようだった。変形する鎧だ。それにどれほどの価値があるのか、ハイスピアは瞬時に計算する。


「(これ、自動杖どころの発明じゃないと思うのですが……)」


 戦争になった時、兵士たちは、重い装備を身につけて長距離を移動するのである。その際、兵士たちは、重いし、蒸れるし、熱いし、という3重苦に晒されるわけだが、ワルツの作った装備があれば、少なくとも後者2つの問題は無くなるはずなのである。しかも、ワルツが作った鎧は小さく折りたたむことが可能。馬車で大量に運べるのだから、実質的には兵士たちの3重苦はすべて改善されるのである。つまり、行軍速度が今までの比ではないほどに速くなる可能性があるということだ。


 一方、ワルツの方は、そんな利用方法があるとは微塵も考えていなかったようである。彼女がその"鎧"を作ったのは、兵士たちのためではなく、自分で着るため。失った機動装甲を作る過程で作り出した、ただの玩具のようなものでしかなかった。


 ワルツは着心地を確かめるかのように、指や腕、首などを動かした後、皆が唖然としていることなど気にする事なく、地面に落ちていた石塊を掴み上げた。そして彼女はその石塊を——、


『とうっ!』


——と、気合いの"き"の字も入っていないような掛け声で、的へと投げつけたのである。


   ズドォォォォン!!


 石塊は、ワルツの腕から離れた瞬間、ソニックブームを発しながら的へと飛んでいく。機動装甲を失って弱体化したとはいえ、一応使う事の出来る重力制御システムや、ワルツそのものの腕力、鎧に搭載されたモーターよるアシストにより、石塊は爆発的に加速して、音速を超えたのだ。所謂、質量兵器と言えるかも知れない。


 そして——、


   ドゴォォォォンッ!!


——的は戦車の主砲で撃ち砕かれたかのようにバラバラになってしまった。的の後ろにあった壁にも、破片が突き刺さり、一部は貫通して、施設外の景色が見えるほどだったようである。


 しかし、ワルツとしては納得がいかなかったらしく——、


『んー、所詮は簡易版ね……』


——結果を分析するのに集中しており、周りの人々の反応などすっかりと眼中に無い様子。それから彼女が周囲の者たちの存在を思い出すまで、ややしばらくの時間を必要としたのであった。


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