14.8-19 試験19
「「「…………」」」
ルシアの魔法を見ていたほぼ全員が黙る。まるで宙を舞う妖精のごとく、綺麗で小さな光の弾が、いきなり弾けて猛烈な光を発した直後、的を溶かし尽くしてしまった……。その事実が皆を恐怖の渦に落ち入れたのだ。なにしろ、その小さな光の弾は、少なくない者たちが図書館などで度々で目撃していたからだ。もしも触れていたなら、どうなっていたことだろう……。そんな最悪の状況を、皆、想像してしまったらしい。
「コントロールに問題は……うん、無いみたいだね!」
弾けた光球の輝きが落ち着いた後、的が蒸発して無くなっていることを確認したルシアは満足げな様子だった。地面は解けておらず、黒く焦げ付いているだけで、抉れてはいない。ハイスピアに言われた減点は一切無く、ルシアが思い描いたとおりの結果だったのだ。
「先生!これでいいですか?」
ルシアは問いかけた。そんな彼女は、ハイスピアがいつも通りに処理限界を迎えてユラユラと揺れ動いているだろうと予想していたようだが、結果は異なっていたようである。
「凄まじい魔力ですね……」ゆらゆら
揺れ動いているという点は間違ってはいなかったものの、処理限界には達しておらず、淡々とルシアの魔法の採点をしていたのである。やはり、驚きに対して段々と耐性が付きつつあるか、あるいは開き直り始めたらしい。
「先生……先生も、成長しているんですね」
「…………えぇ、おかげさまで」
ルシアの言葉にハイスピアはゆっくりと頷き、その場に何とも表現しがたい妙な空気が漂った。
そんな中、手をギュッと握り締めて、プルプルと小刻みに震えていた者がいたようである。まぁ、似たように小刻みに震えていた者たちは大勢いたが、彼女の場合はすこし毛色が異なり、極度の緊張で震えていたようである。次にテストを受ける予定のワルツが、武者震い(?)で小刻みに振動していた(?)のだ。
「わわわ、私の番がきたみたいね……!」がくがく
ラップでも歌っているかのごとく、ワルツは言葉にならない言葉を口にしながら、一歩前に出た。
そんなワルツに気付いて、ハイスピアが口を開く。
「ちょっと待って下さい、ワルツさん。まだ、的が交換できていません」
「ははは、はい。そそそ、そうでした」
ワルツはそう言うと、右手と右足を同時に動かし後退する。まさに前後不覚。極度の緊張状態にあるらしい。
そんな彼女の様子に気付いたアステリアが、ポテンティアに対して問いかけた。
「ワルツ先生の様子が、なんか変ですよ?」
『ワルツ様が変……?いえ、それ普通のことですよね?』
「えっと……変の方向性が違うと言いますか……」
『んー……まあ、アステリアさんの仰っていることは分かります。ですが、その説明では的を射ていません。だって、ワルツ様は、いつも大体、全方向に変なのですから』
「……ちょっと、ポテンティア?軽く私の事、馬鹿にしてない?」
『いえいえ、そんなことはありませんよ。でもほら、緊張は解れたのではないですか?』
「……!そそそ、そうみたいね!」
「『……実はわざとやってませんか?』」
ポテンティアとアステリアが、2人同時に呆れたような反応を見せたとき、ちょうどハイスピアが新しい的を用意して戻ってくる。
「お待たせしました、ワルツさん。準備が整ったので、魔法を放って下さい」
「っ!」
ワルツは口をへの字に結ぶと、的の前に立つ。その手はやはり震えていて、やはり自信はあまり無いようだった。




