14.8-17 試験17
テレサの的を攻撃した者たちが、皆、釈然としない様子でその場から立ち去っていったのを見届けた後。
「では、ポテンティアくーん?次、お願いしますねー」ゆらゆら
ハイスピアは、正気と狂気(?)の狭間で身体を左右に揺らしながら、次の試験者の名前を呼んだ。するとポテンティアは、『はい、先生!』と元気に応えながら、意気揚々と的の前に立つ。彼には、前者2人がある意味トンデモ魔法を使ったという認識は無さそうで、自分の番がやってきても穏やかな様子だ。
そんな彼は、実のところ、最期の瞬間まで、どうやって的を壊せばいいのか考えていたようである。ただし、彼が思い悩んでいたのは、的の壊し方ではない。
『(波風が立たない壊し方……。それが重要なのですよね……)』
どうすれば波風を立たせることなく、テストをクリア出来るのか……。変なところで空気が読めるポテンティアは、その最良の方法を考えていたのだ。
戦艦の姿に戻り、的を砲撃するというのは、皆に見られて大騒ぎになったり、訓練棟ごと吹き飛ばしたりする恐れがあるので却下。マイクロマシンたちを使って的を溶かしてしまうというのも、ただ泥臭いだけで見栄えが悪く、魔法らしくないと考えて却下。そんな事を考えるポテンティアには、変なこだわりか、あるいは妙なプライドがあったと言えるかも知れない。
『(極端なのですよね……。派手か、地味か。普通な方法は無いのでしょうか……。結局、昨日は魔法っぽい技を出す練習は出来ませんでしたし、あまりよろしくない状況ですね……)』
考え悩んだ末、ポテンティアは結論を出す。
『ハイスピア先生!筋力強化も魔法攻撃の一種として含められますか?』
「はい、紛れもなく魔法ですよ?どんな強化をしても、どんな武器を使っても構いませんが、強化後の攻撃は1回しか使っては行けません」
『承知しました(んん?どんな武器を使っても良い……?まぁ、いいか……)』
それからポテンティアは、手を前に突き出した。すると、そこに、黒い刀のようなものが現れる。ポテンティアの分体であるマイクロマシンたちの集合体だ。
ポテンティアはそれを握り締めると、精神を統一するフリをする。複数の意思をもつ彼の場合、精神統一など不可能。武器を手にしても、ただ振り下ろすだけなのだ。
それを知っているテレサがツッコミを入れる。
「ポテよ。また無駄に格好付けておるじゃろ。お主が刀を構えておるところなど、一度も見たことが無いのじゃ」
『シッ!ヤジはやめて下さい。今、集中しているところなので!』
「はーん……」じとぉ
疑いの目を向けてくるテレサを無視して、すぅっ、と息を吐いた彼は——、
ザンッ!
——と、黒い刀を振り切った。
しかし、的に変化は無い。当然だ。ポテンティアの立ち位置からして、的に届く間合いの距離にすら入っていないのだから。
だというのに、ポテンティアは、ハイスピアに対しこう言った。
『先生!如何でしたでしょうか?』
「えっ……何が……ですか?」
ポテンティアは一体何の雹かを求めているのか……。状況が理解出来なかったハイスピアは思わず聞き返してしまう。なにしろ、的に変化は無いからだ。
……と、思ったのも束の間。
バラバラバラ……
ミスリルで出来た的が、みじん切りにされたがごとく、バラバラに崩れ落ちてしまう。刀の振りに合わせて、マイクロマシンたちが切り刻んだのだ。ようするにポテンティアの刀はまったく意味が無い、ただの格好付けでしかなかったのである。
しかし、ポテンティアはそのことを気取られること無く、黒刀を砂のようなマイクロマシンに戻しながら、一言、こう言った。
『これです!』ニッ
その眩しすぎる笑みと、的の残骸を前に、ハイスピアは——、
「……アハッ☆」
——段々と正気を失いつつあったようだ。ここまでの試験で、皆がカオスな魔法を使ってきたために、ダメージ(?)が蓄積していたらしい。
しかし、彼女のその反応は、悪手と言えざるを得なかった。なにしろ本当のカオスは——、
「次、私の番だねー」
——次に控えていたのだから。




