14.8-15 試験15
そして遂に最後のテストがやってきた。魔法の実技試験である。
テストの順番は学籍番号順(50音順)で、最初はアステリア、次にテレサ、ポテンティア、ルシア、そしてワルツの順でテストが行われることになっている。試験会場は、訓練棟の一角。そこでは他の生徒たちも試験をしており、皆、魔法を飛ばして的を壊そうとしていたようだ。
ちなみに、他の生徒たちというのは、初等科の学生たちだけなので、人でごった返していたというわけではない。中等部以上の学生たちはその場におらず、異なる内容の試験を受けているようである。
その場には、同じ初等科のミレニアやジャックもいて、2人もまた試験を受けていたようである。そんな、2人はポテンティアを見つけた瞬間、揃って笑みを浮かべながら手を振っていたようだ。
テレサがその様子を見て、ポテンティアに問いかける。
「……ポテ。お主、何故、手を振られておるのじゃ?あの2人とそんなに仲が良かったの?」
『さて、何故でしょうね?日頃の行いのおかげではないでしょうか?』
「……カサカサと動きながら、冷蔵庫の下に入り込むとか、ア嬢のベッドの下に潜り込むとかかの?」
「えっ……ポテちゃん、そんなことしてるの?!」
『いえ、僕も自分の身が可愛いので、そんな自殺志願なことは絶対にしませんよ。絶対に』
ポテンティアは言い切った。ルシアであれば、ポテンティアを消滅させることなど造作も無い事なので、本気で命の危険を感じたらしい。
そんな不毛なやり取りを交わしながら試験場所まで辿り着いた一行は、ハイスピアが試験の準備をしている間、テスト対策について話し合う。
「どうやってあの的を壊せば良いでしょう?この前のような無属性魔法を使えば、また動けなくなって皆さんに迷惑を掛けてしまいますし……」
「アステリアちゃんって、どんな魔法を使えたんだっけ?無属性魔法と変身魔法だけ?」
「……あと空間魔法と闇魔法を少し……」
「闇魔法!」
ルシアが強く反応する。初めて闇魔法使いに出会ったためか、どんな魔法なのか気になったようだ。
「闇魔法ってどんな魔法なの?私、闇魔法は使えないからよく分かんないんだよねー」
「えっと……ただ暗くなるだけ……としか分かっていません。私も、闇魔法が使えるようになったのはここ数日の出来事なので、詳しくは分かっていないんです。練習する機会は夜しか無いですけど、夜は真っ暗なので、闇魔法を使ってもあんまり分からないし……」
「そっかぁ……。じゃぁ、また新しいことが分かったら教えてね?」
と、ルシアとアステリアが闇魔法について話し込んでいる内に、ハイスピアの準備が整う。アステリアとしては、魔力欠乏症にならずに的を壊す方法を考えようとしていたようだが、結局、思い付くことが出来ず……。ハイスピアが試験の説明をしている間、あたふたとしていたようだ。むしろ、話を聞いていなかった、と言うべきか。
「では、皆さん。これから最後の試験である魔法の実技試験を始めたいと思います。皆さんは順番が回ってきたら、それぞれ1回だけ魔法を使って、あそこに用意した試験用の的を攻撃して下さい。入学試験の際に使ったものと同じ的です。あ、ちなみに必ずしも壊す必要はありません。壊しても怒られはしませんし、点数も高くはなりますが、修復の手続きが面倒なので、出来れば壊さないで欲し——」
『「「…………」」』キラキラ
「あ、うん……何でもありません。壊して下さい」
学生たちの反応を見ていたハイスピアは気付いたようだ。およそ3名ほどの生徒たちが、やる気満々な様子で目を輝かせていたことに。
「では、アステリアさん。お願いします」
ハイスピアは、5人の生徒の内、目を輝かせていなかったアステリアの名前を無慈悲にも呼んだ。しかし、ギリギリのところで、アステリアの中には一つの策が芽生えていたようである。
「……先生」
アステリアがハイスピアに問いかける。
「はい、何でしょう?」
「もしも壊せなくても、努力したことは評価して頂けるんですよね?」
「えぇ、もちろんです。むしろ、壊せない人の方が多いくらいですよ?」
「……分かりました。じゃぁ、やります!」
アステリアはそう言って、魔法を行使した。
そんな彼女が使ったのは、入学試験で使った見えないハンマーのような無属性魔法ではない。もちろん、ただ周囲を暗くする事しか出ない闇魔法でもなければ、元の大狐の姿に戻って爪で叩き斬る、というわけでもなかった。
彼女が選んだ方法、それは非常に地味な魔法。しかし、とても強力な破壊効果のある魔法だった。
ズズズズズ……
「これで一応、壊したってことになるんでしょうか?」
空間魔法による物体の消滅。彼女が魔法を使った瞬間、実空間から、"的"そのものが消え去ったのである。




