14.8-14 試験14
最後の文言を修正したのじゃ。
昼食を終えた頃には、ワルツの表情も元に戻っていた。開き直っていたらしい。
午後は薬学と魔法の実技試験である。その内、魔法の試験は最後に行われることになっていた。魔法を使うと、場合によっては魔力欠乏に陥り、意識を失う者が出るかも知れないので、魔法のテストは最後に回されたのだ。意識を失って、それ以降すべてのテストを台無しにしないように。
というわけで、午後一番の実技試験は薬学の試験である。試験内容は、用意された薬草を使って、傷薬と痛み止め、それに接着剤を作るという内容だ。薬学とは、人の身体を癒やすための薬を作るためだけではなく、薬と呼べるもの全般を取り扱う学問なのである。言い換えるなら、錬金術に極めて近い——いや半分以上、錬金術に脚を踏み入れた学問なのだから。
とはいえ、試験で作成する接着剤は、人の身体にも使う事が出来るものだった。絆創膏のように、出血を止めるためにも使用できるという優れもので、今回作る傷薬や痛み止めと併用すれば、大抵の傷はすぐに治ってしまうという、戦場御用達の3点セットだったようである。そんな実用性もあって、テストの内容に選ばれたらしい。
薬学の実験に使う大きな部屋の中で、それぞれ机を宛がわれてテストは行われた。机同士は微妙な距離で離れていて、隣の者たちの試験をカンニングするのは難しそうである。
そんな中で——、
「ではみなさん。試験を開始して下さい」
——ハイスピアが声を上げた、その直後だった。
『「「出来ました!」」』
3名の試験者たちから一斉に声が上がる。
対するハイスピアは、最早、何も思わないのか、特に驚いた様子もなく、淡々と対応する。
「では順次確認しますねー」ゆらゆら
そう口にする彼女は多少左右に揺れていたようだが、これまでのように、ニコニコとした表情を浮かべながら現実逃避することはなかった。彼女もまた進歩しているらしい。
ハイスピアが最初に向かったのは、ワルツの所だ。ワルツはやってきたハイスピアに対し、超速で作り上げた薬品3点を提示する。
「どうぞ」
「なるほどなるほど……さすがはワルツ先生。OKです」
「ありがとうございます。……うしっ!」
ワルツは、採点したハイスピアに対し、感謝の言葉を口にして、ガッツポーズを取った。一応、緊張はしていたらしい。
そんな彼女に苦笑を浮かべた後、ハイスピアはポテンティアの所へと向かった。
「ポテンティア君も出来たのですか?授業は受けていなかったように思うのですが……」
『この薬草から傷薬と痛み止めと接着剤を作れば良いんですよね?』
「えぇ、そうです」
『ちなみに、それ以外に、万能な毒消しと、高速回復する傷薬と、少しだけ若返るエリクサーを作ったのですが、それって加点対象になりますか?材料は一緒なのですが……』
「…………」
ハイスピアは思考が停止した。たっぷりと10秒ほど停止したようである。むしろ、彼女の場合は、10秒しか停止しなかったと言うべきか。
「……えっと、OKですね!」ゆらゆら
どうやらハイスピアは現実を直視するのをやめたらしい。
そして最後。ハイスピアは、ルシアの所へと向かう。
「では、ルシアさん」
「はい、どうぞ」
ルシアが提示した薬を見たハイスピアは、「ん?」と首を傾げる。
「どうかしたんですか?」
ルシアが問いかけた先で、ハイスピアはマジマジとルシアの作った薬を見つめた。なにか気になる事があったらしい。
「見た目は確かに薬のようですが……なんか魔力のようなものを感じるような……」
「いえ、マナとかは混ぜていませんけど……」
「そうよね……マナなんて準備してないし……。ちょっと味見してみましょう」ぺろっ
ハイスピアはルシアが作った薬を指の先に付けて、ペロリと味見をした。
……その後、ふと我に返った彼女が時計を見ると、薬学の実技テスト終了間際になっていたようである。突然時間が飛んだのだ。おかしな事もあるらしい。
一体何があったのか、考え込むハイスピアだったが、どうしても思い出せず……。周囲を見渡しても、青い顔を浮かべて目を逸らす者たちばかりで……。結局彼女が事情を察することは出来なかったようである。
なお、ルシア以外のテレサ、アステリアを含めたメンバーは、薬学のテストを満点でクリア出来た模様。
……薬なら無事に作れると思ったかn……ブゥン




