14.8-13 試験13
午前中の内に筆記試験が終わる。具体的には言語学や算数どの一般教科と、薬学の専門知識に関する筆記試験が終わった。
試験が終わった後で、ルシアとテレサは、揃って眉を顰めていたようである。とはいえ、テストの内容が難しかったわけではない。むしろ、簡単すぎたのだ。授業の進み具合にテストの内容が合致するわけではなく、テストの内容は、飽くまで新入学生を対象とした内容だったのである。例えるなら、高校生が小学一年生のテストを受けるようなものだったのだ。
「テレサちゃん、どうだった?」
「ん゛ー……あの内容でどうだったと聞かれてものう……」
「だよね……」
決してテストに書けない問題があったわけではないが、想定した内容とあまりにレベルが違いすぎる……。そんなことを考えていたのか、ルシアもテレサも微妙そうな表情を浮かべていた。
一方、アステリアとポテンティアは、反応が大きく異なっていた。
「はぁ……なんとか全部書けました!」
『おや?アステリアさんもですか。僕もなんとかなりましたよ。昨日の入学で、今日テストとか、正直、ここの教員は頭がおかC……いえ、とても厳しい教育方針を採っているのだと思いましたが、どうにか皆さんの学力について行けていそうなので安心しました』
「ふふっ!お互い、点数が楽しみですね!」
2人はテストを無事乗り切ったことで、素直に喜んでいたようである。アステリアは元が狐の魔物ゆえに、ポテンティアは昨日入学したばかりだったために、それぞれ大きな足枷があったものの、テストの内容には概ね満足出来ていたようだ。
そして最後の1人。
「…………」
ワルツはとても暗い表情を浮かべていた。明らかにテストで失敗したと言わんばかりの表情だ。
とはいえ、彼女には、テストで分からなかった問題があったというわけではなかったらしい。何しろ、授業で指導をしていたのは、教師のハイスピアではなく、ワルツだったのだから、分からない問題が出るわけが無かったのだ。
では、彼女は何故暗い表情を浮かべていたのか……。
「お姉ちゃん……大丈夫?」
ルシアが問いかけると、ワルツは益々暗い表情を浮かべて首を横に振った。
「非常に拙いわ……」
「えっ……?内容は簡単だったよね……?」
「うん。内容は、ね。確かに答えはあってると思うわ?でも、算数のテストって、答えがあっていても、その途中の計算式が無かったら、ダメなのよ……」
「うん?書けば良いんじゃないの?途中経過も」
「……私、書けなかったのよ。足し算とか、引き算とか、数字を見た瞬間に答えが分かるんだけど、その中間ってどうやって出せば良いのか分からなくて……。49+51って、どうやって計算した?」
「えっと……9+1やってから、1繰り上がって、4+5+1やって、10が出て、それを繋げて100にした?」
「……それが私には分からないのよ。数式を見た瞬間、答えしか見えないって言うか……」
ワルツはそう言って大きく溜息を吐いた。どうやら、算数のテストは全問回答できたようだが、途中経過をすべて省略したらしい。いや書けなかったらしい。元が機械である彼女にとって、人間向けの算数のテストは、難問以外の何者でもなかったのである。
「でも教えてくれたのって、お姉ちゃんじゃなかったっけ?」
「口頭じゃなくて、頭に直接書き込む強制学習帳を使ったから、私が直接教えたわけじゃないわよ?自分にも使えれば良いのに……」
そう言って、どんよりとした表情を浮かべるワルツを前に、ルシアは何と声を掛けて良いのか分からず……。
「ま、まぁ、きっと大丈夫だよ!それよりお姉ちゃん!お昼ごはんの時間だよ?」
ルシアは、重い空気を誤魔化すように、話題を変えるしか思い付かなかったようだ。
未だに算数・数学のテストが理解出来ぬ……。




