14.8-12 試験12
「……これは、魔法の発動に必要な装備なのです!」ドンッ
「えっ……?」
「ですから、魔法の試験に持ち込み必須なのです!」ゴゴゴゴゴ
「えっと……どうかされたのですか?ワルツ先生。魔法の試験は午後からですけど……」
教室で顔を合わせるや否や詰め寄ってきたワルツを前に、ハイスピアは面食らった。話の流れなど関係無しに、いきなり詰め寄られれば、困ってしまうのも当然だと言えるだろう。
流石のワルツも、ハイスピアが話について来られていない事に気付いたのか、事情を説明する。
「直前になってから許可を取ったのでは遅いので、魔法の試験まで時間のある今のうちから持ち込みを確約しておこうと思ったのです!」
「なるほど……。昨日、ポテンティアくんとお話した件ですね」
昨日、帰ったはずのポテンティアが、何故か研究室にやってきて、魔法の試験への持ち込み品について確認してきたこと……。ハイスピアはその際に説明した内容を思い出したらしい。一部に学生は、魔法の試験に、精神を集中させるという目的で装備品を持ち込むことがある、と。
「持ち込みに禁止されているのは、魔石です。魔法の試験に影響がある自動杖や魔道具の類いは、すべて魔石を内蔵していますからね。魔石さえ持ち込まなければ、他は何を持ち込んでもらっても構いません。あ、代役はダメですけど」
という、ハイスピアの説明を聞いた瞬間、ワルツが——、
「よしっ!」
——とガッツポーズを決める。
そんなワルツにハイスピアは問いかけた。
「ちなみに、何を持ち込むつもりなのですか?」
「ふっふっふ……。秘密兵k……秘密です!」
やはりテストのその瞬間まで明かすつもりは無いらしい。ワルツはとても機嫌が良い様子で、くるりと身を翻すと、自分の席に戻っていく。その際、ハイスピアは、ワルツの背中に何やら金属の塊のようなものが背負われている事に気付いて、すぐに思い至ったようである。……それがワルツの秘密兵器なのだろう、と。
「(まぁ、この教室にいる生徒たちの場合は、何を見せてくれるのか想像が付きませんから、例え魔石の類いが使われていたとしても、持ち込みは許可することにしているんですけどね……)」
ワルツたちがいた教室は、ほぼ全員がミッドエデン関係者だったこともあり、学院長からも制限の緩和の許可が出ていたのである。
元々、魔法のテストの場合は、数字がそのまま成績になるわけではなく、どんなことをしたのか、どんな結果を残したのかという観点で評価されるので、持ち込み品があろうと無かろうと評価への影響は無かった。たとえ魔法が発動しても、それがズルによるものなら点数はゼロ。努力が認められれば相応の点数が付く、といったように、だ。
ただ、何でもありにしてしまうと、カオスなテストになってしまうので、魔石の持ち込みは禁止、という制限事項が設けられていたのである。それだけで、自動杖も魔道具もすべて使えなくなるので、事実上、生徒の魔法の魔法に着目したテストができる、というわけだ。科学が発展していないこの世界だからこそ成り立つ制限事項と言えよう。
ゆえに、科学の塊であるワルツにとっては、やりたい放題だった。そんな彼女にとっては、テストなど、もはや終わったも同然。テンションが上がるのも仕方がない事だった。
しかしである。机に戻ったワルツは、どういうわけか顔が青かった。いや、むしろ、徐々に顔が青くなりつつあった、と言うべきか。何か大きなトラブルが現在進行形で起こっているらしい。
そんなワルツに気付いたのは、真横に座っているルシアだった。
「ねぇ、お姉ちゃん。大丈夫?顔が青いけど……」
ルシアには、テンション高めで席まで戻ってきたワルツが、急な腹痛か何かに襲われたかのように見えていたようである。
実際、ワルツは、具合が悪かったようである。学生にとって生死が関わる問題な起こっていたのだ。
「……テ、テスト対策品を持ってきたせいで、筆箱が入っている鞄を忘れちゃった……」げっそり
「あ……うん……なるほどね……」
なんとも姉らしい……。ルシアは苦笑しながら、そっと予備の鉛筆と消しゴムをワルツへと差し出した。
よくあるやつなのじゃ。




