14.8-11 試験11
朝起きたばかり、ではなさそうな、普段通りの表情を見せつつ地下から現れたワルツを前に、アステリアは驚いていた。
「ワルツ先生、まさか、徹夜ですか?!」
地下から出てきたワルツが昨日と同じままの服装を着ていたこともあり、徹夜したと思ったらしい。
対するワルツは隠すこと無く事情を打ち明けた。
「まぁね。私、寝ないし」
「えっ……寝ない……?」
「そういう体質なのよ。真似しちゃダメよ?普通の人がやったら死んじゃうから」
「は、はい……」
睡眠時間が短いという人間については、今までの人生で何度か見てきたことがあったアルティシアだったものの、流石に睡眠時間ゼロという人物は初めてだったためか、彼女は驚いたようである。しかし、アステリアは、それほど戸惑うこと無く、すぐさま事実として飲み込めたようだ。近くでワルツたちの常識を外れな行動を見てきたからだ。
「でも、すごいですねー。さすがワルツ先生です!」きらきら
ワルツなのだからそういうものなのだろう……。既にアステリアの常識は、一般的な"常識"から大きくズレてしまっているようだ。
「んー、その反応、新しいタイプね……」
「えっ……?」
「嫌いじゃないわよ?」
「は、はい……ありがとうございます……?」
一体何を褒められたのか意味も分からないままアステリアが相づちを打つと……。
「ところでワルツよ」
今度はテレサが問いかける。
「いったい何を作ったのじゃ?」
一晩中時間をかけて、何を作ったというのか……。テレサだけでなく、その場にいた者たち全員が抱いていた疑問だ。
それに対しワルツは「ん゛ー」と唸った後、難しそうな様子でこう言った。
「なんか、色々作ったんだけど、小型化したせいで、思ったような性能が出ないのよね……。強度的に問題があるって言うか……。まぁ、魔法の試験を誤魔化すくらいならなんとかなるでしょ。多分ね」
結局、何を作ったのか一切言わなかったワルツだったが、地下から出てきた彼女の背中には、何やら金属塊のようなものが背負われていたようである。それが一晩掛けて作った魔法の試験の対策品らしい。魔法の行使に必要な装備品だと言い張るつもりなのだろう。
「ねぇ、お姉ちゃん。それものすごく気になるんだけど……」
テレサに続いて、ルシアが問いかける。が——、
「ふっふっふ……。内緒」
——やはりワルツは説明しなかった。試験のその瞬間まで黙っておくつもりらしい。敵を騙すにはまず味方から、といったところだろうか。
そして最後。"動く点P"がトドメ(?)を刺す。
『これでテストに持ち込み禁止、って言われたら悲惨ですねー』
「ちょっ……待ちなさいよ!ポテンティア!大丈夫って言ったの貴方よね?!」
『えぇ。確認はしましたが、何ぶん、今回のイベントは僕も初めての事。実は違いましたと言われる可能性は否定できません。でも僕のことは恨まないで下さいね?持ち込み物について仰っていたのはハイスピア先生なので』
「……なんか、級に不安になってきた」
度々現実が受け入れられずに壊れてしまうハイスピアの頼りなさを思い出したのか、ワルツの表情は一気に曇る。
しかし、今からハイスピアに確認しようにも、確認する手段は学院に直接出向くくらい。あるいは、持ち込み品の完成度を上げて、バレないようにする(?)という手も考えられたが時間は無情にも過ぎ去っていき……。朝食を食べながらどうしようかと悩んでいる内に、登校の時間がやってきてしまったのであった。




