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14.8-10 試験10

 人々がやってきたために、結局、魔法の練習が出来なかった(?)ワルツたちは、大人しく自宅に戻ってきた。ただ、ワルツとしては、魔法の練習が出来なくても何ら問題は無かったようである。そもそも彼女は魔法が使えないからだ。むしろ、はやく自宅に戻りたい程だった。


「じゃぁ、ちょっと私、地下に籠もるから、明日の朝まで放っておいてね?」


   バタンッ……


 ワルツはそう言って、地下空間の自宅にある地下室へと籠もってしまう。


「地下なのに地下室に籠もるって……なんか変な言葉だけど、お姉ちゃんらしい言葉だよね」


「それもそうなのじゃが……ワルツは何をするつもりなのじゃ?まぁ、大体の予想は付いておるが……」


「うん、多分その予想通りじゃないかなぁ?」


「ふむ……。テスト対策にしては仰々しいのう……」


 テレサのその呟きにルシアは苦笑した。どうやら2人とも同じ事を考えているらしい。リビングに居合わせたポテンティアも、大体の事情は想像出来たためか、2人に詳細を問いかけるようなことはせず、ウンウンと頷いていたようである。ただし、昆虫の姿で。


 そんな中、ただ一人、アステリアだけは事情が飲み込めずに首を傾げていた。


「えっと……ワルツ様は何をされようとしているのですか?」


 アステリアが問いかけると、ポテンティアが返答する。


『ちょっとしたモノづくりですよ。この家の地下にはワルツ様の工房がありますので、そこで"あるもの"を作ろうとしているのです』


「あるもの?一体何を……」


『もちろん、明日のテスト対策ですよ。具体的には魔法のテストを乗り越えるための品です。何を作ろうとしておられるのかは僕にも分かりませんが、きっと突拍子も無いものを作ろうとしているのでしょう』


「はあ……」


 ポテンティアの説明を聞いても理解出来ず、アステリア不思議そうに首を傾げた


 それから4人は、明日のテストの内、魔法以外の部分について一夜漬け(?)の勉強を始めた。その際、どこからとも無く、チュィィィィンという甲高い音や、カンカンという何かを叩くような音が聞こえてきていたようだが、あまり大きな音ではなかったためか、4人ともBGM代わりに勉強に勤しんだようだ。


  ◇


 そして次の日の朝。


「げっそり」げっそり


 寝不足気味のテレサが、食卓に腰掛ける。


 続いてルシアとアステリアがやってきた。


「おはよう、テレサちゃん。アステリアちゃんもおはよ?」


「おはようございます。えっと……ポテンティア様は……まだ冷蔵庫の下で眠っておられるのでしょうか?」


 アステリアが問いかけると、どこからともなく声が聞こえてくる。


『おはようございます。僕でしたら起きていますよ?』


「えっ……どこですか?」


『ここですよ。こーこ!』


 声が聞こえる方向にアステリアが視線を向けると、そこには一枚のノートが広げられていた。アステリアが苦手とする数学のノートである。


 そんなノートから何故、ポテンティアの声がするのか……。アステリアがジィッとノートを見つめていると、何やらおかしな現象がノートの上で起こっていることに彼女は気付く。


「文字が……動いてる……?」


 数学にありがちな点Pが動いていたのだ。


『いえ、それは僕。動く点P、もといポテンティアです』


「は、はあ…………は?」


『実は早起きして勉強していたのです。僕自身、ずっと授業に参加していたわけではありませんから、皆さんよりも勉強がおくれておりますので。僕自身はノートを取っておりませんでしたので、一番細かくノートを取っていたアステリアさんのものを見せて頂いておりました。勝手に見てしまい、申し訳ございません』


「いえ、別に良いですけど……」


 アステリアは納得出来なさそうな表情を浮かべた。それはポテンティアの説明が理解出来なかったから、というのもあるが、それが理由ではない。ポテンティアがなりすましていたのが、点Pの"点"の部分ではなく、"P"の部分だったからである。


「……数学は難しいです」


 アステリアは思わず溜息を吐いた。そんな彼女の中では、何やら大きな誤解が生まれていたようだ。


 と、そんな時——、


   ガチャッ……


「あら、おはよう?みんな」


——リビングの床にある隠し扉を開いて、一晩中地下に籠もっていたワルツが姿を見せた。


もっと然るべきタイミングで出すべきじゃったかのう……。動く点P。

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