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14.8-09 試験9

 その現象に擬音を当てるのは難しい。強いて言うなら、ドンッ、か、スッ、か……。


 テレサが空に向かって言霊魔法を放った瞬間、空から雲という雲が消えて、青空が広がったのだ。


『「「「…………」」」』ぽかーん


「ふむ。まぁ、こんなものかの」


 テレサはそう言いながらも、実は内心で安堵していた。……うまく魔法が効いて良かった、と。もしも魔法が効果を発揮しなければ、今頃、彼女は赤っ恥をかいていた上、近隣住民に多大な迷惑どころか、怪我人や死人の類いを出していたはずだからだ。


 一方、ルシアやワルツたちは、テレサの魔法に大きな驚きを見せていたようである。


「テ、テレサちゃん、天気が変えられるようになったの?!」

「テレサやるじゃない!」

「テレサさんってすごい方だったんですね」

『さすがはテレサ様です』


 一斉にテレサを賞賛する一行を前に、テレサ本人は喜んでいるか、と思いきや。なぜか怪訝そうな表情を見せる。そして彼女は頬をつねって、こう言った。


「おかしい……夢じゃないのじゃ……」げっそり


 今までワルツたちから褒められることが無かったためか、皆から賞賛されていた現状を素直に受け入れられなかったのだ。それから彼女が指先をペロリとなめて、眉を指でなぞったのは、眉に唾を付けておけば狐に化かされないという所謂眉唾を実践したからか。なお、彼女自身が狐娘。幻影魔法を使って人を化かせるのは、一行の中ではテレサだけである。


 そんなテレサに対し、ワルツは問いかける。


「ルシアも言ってたけど……貴女、いつの間にこんなことが出来るようになったのよ?」


「いつから、というのは良く分からぬのじゃが、空を見ておったら何となく出来るような気がしての?まだコツを掴んでおらぬゆえ、ア嬢の魔力を利用する形になってしまったのじゃが、もう少し特訓すれば、妾自身の魔力でも天気くらいなら銅に抱えられると思うのじゃ」


「ふーん。ちなみに操れるのって、天候だけ?」


「あとは風くらいなら行ける……かもしれぬのじゃ。なにせ、試したのは今回が初めてじゃからのう」


 と言いつつ、ルシアにチラリと視線を向けるテレサ。するとルシアも何やらジト目を向けていて、2人の間では視線だけで会話が成立していたようである。


 そんな2人を前に、ワルツは呟いた。


「貴女もルシアと同じで、強くなって行ってるのね……」


「え゛っ……ア嬢と同じ?」

「え゛っ……テレサちゃんと同じ?」


「えっ……何その反応。なんでそこ嫌がるのか、よく分からないんだけど……」


 ワルツの発言を聞いて、まるで寝耳に水と言いたげな表情を浮かべた後、ルシアとテレサは揃ってムッとした表情を浮かべた。どうやら比べられるのが嫌だったらしい。ワルツからすれば、2人はとても仲が良さそうに見えていたのだが、どうやらそう簡単な関係でもないようだ。腐れ縁か何か……。それに近い関係といったところだろう。


「まぁ、良いけど」


 あまり2人の関係に立ち入るのはどうかと思ったのか、あるいは何か別のことでも考えたのか。ワルツは生暖かい視線を二人に向けた後で、宣言した。いや、宣言しようとした。


「さぁ、いよいよ魔法の練習をはj——」


 魔法の練習を始める……。そう口にしようとした時、森の方が何やら騒がしくなる。どうやら村の方から人がやってきたらしい。湖に何度も雷が落ちたり、巨大な雹の塊が降ったり、あるいは謎の閃光などが空に打ち上がったりしていたので、村人たちが様子を見に来たようだ。


 結果、ワルツは慌てて指示を出す。


「ルシア!人が来たから元通りに!」


「う、うん!」


「アステリア!人の姿に変身して!」


『は、は、はい!』


「ポテンティアはGスタイルから戻るか、人の目に付かないところに消えなさい!」


『酷い言われようですね……。しかたない。人の姿になります』


「テレサは……うん。まぁ、いいや」


「ちょっ……。なんか妾の扱いだけ雑なのじゃ……」


 それから間もなくして人が来るが、その頃には湖は元の姿に戻っており、天変地異によって生じた傷跡も、その原因を作っただろう巨大な魔力を操る魔物(?)も、そこにはいなくなっていたのだとか。


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