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14.8-08 試験8

「「あ」」


 ルシアとテレサが空を見上げて同時に声を上げる。今までポテンティアとアステリアの変身に意識を削がれ、空で起こっていた天変地異のことをすっかりと失念していたのだ。


 空に浮かんでいた暗雲からは、何やら小さな竜巻のようなものが大量に発生していて、まるで一つの生き物(クリーチャー)のように変貌しつつあったようである。ルシアが放った魔力により、一種の魔法生命体のようなものが誕生しかかっていた可能性もあるかもしれない。魔力が土地に溜まることによって出来る迷宮の一種のように。


「ちょっ?!テ、テレサちゃん!あれ、どうにか出来るんでしょ?!どうにかして!」


「えっ……いや、だから、魔力が足りぬと言っておろう?!消し飛ばして欲しくば、手でも足でも出すのじゃ!」


「えっ……ぶちゅーってやられるの恥ずかしいからヤだ!っていうか……えっ?足?」


「いや、それはただの言葉の()()であってじゃの?気にするところでは——」


 と、やり取りをしている間にも、竜巻の一部が森に到達し、色々なものをまき上げ始めた。それと共に空からは、ボウリングの球サイズの巨大な雹が——、


   ズドォォォォン!!


——と降り始める。


「「やばいやばいやばい!」」


 もはや、魔法で吹き飛ばした方がいいのではないか……。しかし、空の暗雲は魔法を打ち上げた結果生じたので、事態は悪化するだけではないか……。流石のルシアも、天変地異を起こす練習などしたことが無かったので、魔法で起こった天変地異を魔法で消し飛ばす事でどうなるのかは予想が付かず、魔法による解決に二の足を踏んでしまう。


 一方、テレサの方は、どうするかで悩んでいたようだ。ただし、"解決策"を講じるか否かではない。どうやってルシアから魔力を吸収するかだ。


 ルシアの手の甲に接吻すれば、それだけで魔力の吸収が行えるが、無理にそんなことをすれば、天変地異が地上を滅ぼすよりも先に、テレサがルシアに滅ぼされてしまう可能性が否定できなかったのである。その上、テレサが考えていた天変地異の対処プランは、推測によるものであり、確定したものではなく……。解決する確固たる自信があるというわけではなかったことも、行動を躊躇させていた原因になっていた。もしも、無理矢理にルシアの手に接吻したとして、何も起こせなければ、それはそれでプライドが微塵切(みじんぎ)り状態になるからだ。まぁ、現状、プライドが云々などと言ってる余裕は無くなってはいたのだが。


 ワルツも声を上げる。


「ちょっと、テレサ!どうにか出来るんだったら、さっさとどうにかしなさいよ!このままだと、学院とか村とかに死人が出るわ!」

『うひゃん!』

『ほほーっ!テンションが上がってきましたよ!これがアポカリプスですか!』


「ちょっ……も、もう!やるしか無いのじゃ!」キッ


 結果、テレサは遂に意を決した。ワルツに許可を貰ったのだから、もう何でもありだ、と。


 しかし、ルシアは両手を胸の前でギュッと握り締めていた上、テレサに背を向けていたので防御は万全。少なくとも手に接吻するという行為は不可能だった。


 ゆえにテレサが眼を付けたもの。それは、ルシアの腰からぶら下がる、ふさぁ、とした黄色い毛の塊。尻尾だった。


「…………」ごくり


「ちょっ?!テレサちゃん?!何考えてんのさ?!目が血走ってる?!」


 何やら言い知れない悪寒を感じ取ったのか、ルシアがくるりとテレサの方を向く。すると、その先では怪しげな表情を浮かべながら近寄ってきていたテレサがいたので、ルシアは一旦、空を見上げた後で、左手の甲を恐る恐る差し出した。


「こ、今回かぎりなんだからね?」かぁ


「…………」ぴたっ


「……?いや、だから、今回限りだって」


「いや、それはどうでもいいのじゃが、そもそも手の甲を差し出すのになぜ恥ずかしがることがあるのかと思っての?普通の挨拶でも、手の甲に接吻することくらいあるじゃろ。そう考えれば、別にア嬢が手を出すのは恥ずかしい事でもなんでもn——」


「もう、なんでもいいから、早く魔力を持って行ってよ!」ぶちゅーっ


「もがっ?!」ビクンビクン


 テレサは結局、ルシアから張り手を食らった。それも顔面に。


 ただ、そのおかげ(?)で、テレサはルシアから魔力を大量に譲渡され、尻尾の数が一気に増えることになる。


「はぁはぁ……魔力を注ぎ込まれすぎて、殺されるかと思ったのじゃ……」つやつや


「それ、つやつやになって言っても説得力無いんだけど?っていうか、空のあれ、どうにか出来なかったら、テレサちゃん……分かってるよね?」じとぉ


「…………ま、これだけ魔力があれば、なんとかなるじゃろ」


 テレサはそう言うと、くるりとルシアに背を向けた。すると3本どころか、十数本に増えた尻尾が遅れて付いてくる。


 しかし、テレサはあまり気にならなかったらしい。その尻尾に実体は無いらしく、重さは感じなかったからだ。


 そして彼女は空に向かって魔力を放出しながら、こう言った。


「空よ——『晴れよ』!」


 と。


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