14.8-07 試験7
一方、半ば放置されていたアステリア狐は、物陰に身を隠したまま、ジィッとワルツたちの方を観察していたようである。そこで彼女は何を言われるのかとハラハラビクビクしていたようだ。
ところが誰も何も言ってこないので、彼女は段々と違う意味で心配になってきていたようである。実は皆、自分の事を無視し始めたのではないか、と。何しろ自分は狐の魔物なのだから、無視されたとしても仕方がないのではないか、と……。
結果、アステリア狐がしょんぼりと耳を倒していると、ワルツから声が飛んでくる。
「ほら、アステリア?いつまで隠れてるのよ。魔法の練習に来たんじゃないの?」
『えっ……?』
「あー、私もアステリアみたいな感じで変身魔法さえ使えれば、真っ当に魔法のテストを受けられるんだけど……」
『(まさか、ワルツ先生……私の正体には気付いてない……?)』
「そういえばポテンティアも変身して魔法の試験を乗り越えるんだったっけ?」
『えぇ、僕も変身しますよ?まぁ、この姿自体が変身しているようなものですけれどね』かさかさかさ
ポテンティアが姿を変え、人の姿から小さな昆虫の姿になったり、大きな蜘蛛の姿になったり……。様々な姿に変わる様子を見ている内に、アステリアの考えが変わっていく。
『(そっか……ポテンティア様みたいな人が近くにいるから、気付いてないんだ……)』
アステリアはそう思い、物陰で立ち上がると、意を決した様子で表に姿を晒した。
そして更にもう一方。
「うはっ!モフモフッ!」きゅぴーん
「ちょっ、テレサちゃん!空気読まなきゃダメだって!」ぐぐぐぐぐ
「そういうア嬢だって、空気を読むべきではなかろうか?」ぎぎぎぎぎ
テレサとルシアは、何故か取っ組み合いになっていた。もちろん、拳という名のなんとやらで語り合っていた訳ではない。お互いにお互いを抑えるという奇妙な体勢を取っていたのだ。
理由は2つ。ポテンティアが嫌悪感を催すような姿に変身していたために、ルシアが彼に向かって人工太陽を打ち込もうとしていたので、それをテレサが必死になって止めようとしていたこと。そしてアステリアが元の狐の姿に戻ったために、その姿を見たテレサが興奮して欲望に打ち勝てず、今にも走り出そうとしていたのをルシアが止めようとしていたこと。その結果、お互いにお互いを抑えるという謎の状況になっていた、というわけだ。
「大丈夫だって。もう撃たな——」
『ミミズさんにも慣れますよ?ほらほらー』にゅるにゅる
「貴方、なんでそういう気持ちわr……微妙な生き物にしか変身しないの?」
「コロスコロスコロス……!」ゴゴゴゴゴ
「お、落ち着くのじゃ!ア嬢!あれは本物の生き物ではなく、ポテが変身した姿なのj——」
『す、すみません。取り乱して狐の姿になっちゃいました!』ふさぁ
「んほほぉぉぉっ!!狐ェェェェ……」ワキワキ
「ちょっと!テレサちゃん!なんで狐を見ると、いつもそんな風になるのさ!」ガシッ
「この欲望がどうして止められよう?!妾はモフモフを欲しておるのじゃ!」ゴゴゴゴゴ
「て、手遅れかもしれない……。早くなんとかしないt——」
『次は——』
そしてポテンティアはとある存在に変身した。
『狐さんです!』ドンッ
「「?!」」
テレサとルシアの間に衝撃が走る。ポテンティアが立っていた場所にマイクロマシンたちで作った黒い狐の姿が現れたからだ。
しかし、どういうわけか——、
「……ふん!紛い物には興味は無いのじゃ」
——テレサの食指(?)はまったく伸びず……。そしてルシアもまた——、
「微妙……」
——ポテンティア狐への評価は高くなく……。取っ組み合いは突然白けたように終わりを迎えたのである。
そんな時だった。
ズドォォォォン!!
空から2回目の落雷が降ってくる。テレサとルシアが取っ組み合いをしていたために、空に浮かんでいた暗雲はそのまま放置されており、雹が降ってくるまで一刻の猶予も無い状況になっていたのだ。




