14.8-06 試験6
「あれ?ポテくん、帰ったんじゃなかったでしたっけ?えっと……ちょっと待ってくださいね?」
ポテンティアは、ワルツたちと一緒に行動しているので、彼女たちと一緒に今頃は自宅に戻っているはず……。そう考えるハイスピアだったものの、外で何やらゴロゴロという音や閃光が見えていることを思い出して、考えを改める。……もしかすると、ワルツたちは、急な雷雨か何かに見舞われて、帰れなくなったのではないか、と。もしも彼女の部屋から湖の姿が少しでも見えていれば、彼女の反応はまったく異なっていたはずだが、その部屋の窓が向いていたのは、湖とはまるで異なる方向で、その上、木が邪魔だったこともあり、外の景色を見ることはできなかったようである。
ハイスピアは作りかけのテスト用紙を慌てて机の中に仕舞い込むと、ポテンティアのことを部屋へと招き入れる。
「はい、どうぞ?開いてますよ?」
ハイスピアがそう口にすると、ポテンティアが『失礼します』と行儀良く部屋の中へと入ってきた。
『先生。明日のテストについて質問があります』
「はい、なんでしょう?」
『明日の魔法のテストなのですが、杖の持ち込みは可能なのでしょうか?』
「あぁ!そうでした!ごめんなさい。私としたことが大切な事を説明し忘れていましたね。杖の持ち込みは可能です。その他、エンチャント済みの装備なども持ち込めます」
『エンチャント済みの装備も、ですか?』
「えぇ。貴族出身の学生の中には、特別な装備が無いと精神統一できない、って主張する子もいてね……。彼らのために許可しているのよ。正直、貴族なんて放っておけば良いのにって思うのだけれど、一応、この学院も国の施設だから、貴族様から圧力が掛かると、無視出来なくてね……
『なるほど。そういった理由があるのですね。これは好都合だ』
「……えっ?」
『ちなみに、その装備や杖ですが、制限ってありますか?』
「そうね……魔力が溜められる魔石の類いは、テストの結果に直接関係してくるからダメ。あと、当然だけれど、自動杖もダメよ?理由は同じで、テストにならないから」
『それ以外は無いと?』
「……あと、呪いの剣とか、使い魔を装備品に化けさせるとか、そういったものもダメね。もしかすると、貴族出身の学生の中には、バレないように使ってる人もいるかもだけど、真似しちゃダメよ?」
『承知しました。思っていたよりも簡t——深刻なテストではないようですので、安心しました』
「そう?まぁ、頑張ってね。あなたたちには期待しているから」
その際、一瞬だけポテンティアから目を逸らしたハイスピアは、机の上に"特別教室計画"の書類がある事に気付いて、その内容をポテンティアへと伝えようとする。
しかし、再びハイスピアが顔を上げたときには——、
「あぁ、そうそう。ここだけの話なんだけど…………あれ?」
——その場にポテンティアの姿は無く……。
「……えっ……ええっ?!」
薄暗い部屋の中に取り残されたハイスピアは、何か背筋に冷たいものが走るような、そんな感覚に襲われていたようである。
◇
湖畔にいたワルツは、ポテンティアから、ハイスピアに話を聞くのでしばらく待って欲しい、と言われ、数十秒間待っていた。
そして1分ほど経った頃。
『お話、聞けましたよ?』
ポテンティアがそんな声を上げる。
「えっ?どうやって?」
『あのですね?ワルツ様。僕はいつでもどこにでもいるのです。なので、学院に残してきた分体に聞いてもらったのですよ』
「……ようするに、学院に残してきたマイクロマシンたちにポテンティアの姿を真似させて、ハイスピアに直接聞いたのね?」
『真似と言いますか、僕自身と言いますか……まぁ、似たようなものです。で、その結果なのですが……』
そしてポテンティアは、ハイスピアに聞いた話をワルツに説明した。するとワルツは——、
「ふふーん。なら、どうにかなりそうね」
——そう言って、少し嬉しそうに口許をつり上げたのである。どうやら彼女は、魔法の試験を突破するための秘策を考えついたようである。




