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14.8-05 試験5

 雷は、その場で一番高い場所に落ちた。


   ズドォォォォン!!


 その場において一番高いものは、湖に出来た大きな氷の柱だったので、ワルツたちの頭に落ちることは無く、皆、取りあえずは事なきを得たようである。


 ただ、身体に雷が落ちていないとはいえ、突然の爆音と閃光には驚きを隠せない者たちが少なからずいた。中でもアステリアは、雷が苦手だったのか、身体中の毛をすべて逆立てると、一目散に森の方へと逃げるように走って行って、そこにあった岩の影に隠れてしまう。


 そして——、


   ボフンッ!


——そのまま変身が解けて、大きな狐の魔物が姿を晒してしまう。


 その瞬間、アステリアは違う意味で頭が真っ白になった。今までワルツたちに対し、正体を隠してきたというのに、遂にバレてしまったからだ。


『あっ……ああっ?!』


 どうやって誤魔化せば良いか……。彼女は必死になって考えた。もしもうまく誤魔化せなければ、アステリアは魔物として扱われるので、ワルツたちの前から姿を消さねばならないからだ。


 そんな中、アステリア狐の姿を見たポテンティアが、一切合財何事も無かったかのようにポンと手を叩く。


『あ、そうですよ、ワルツ様。テストの内容って、魔法で的を壊すんですよね?だったら、人では無い何かの姿に変身したり、身体強化と言い張って無理矢理素手で的を破壊すれば良いんじゃないですか?変身魔法も、身体強化の魔法も、魔法は魔法ですし』


 対するワルツも、天変地異や落雷程度で揺るがない強固な意志(?)を持っていたためか、ポテンティアの発言に相づちを打った。


「あー、なるほどね。でも、流石に素手で的を壊すのは拙いんじゃない?なんか、あとで、"ゴリラ"とかあだ名を付けられそうだし……」


『ゴリラ?あぁ、大猩々のことですか。まぁ、確かに、変な噂が立つのは学生生活を送る上で障害となり得ます。そうなるとやはり、魔法を使った(てい)で変身するのがよろしいと思いますよ?今のアステリアさんみたいに』


「変身ねぇ……」


 といいながら、アステリアを一瞥するワルツ。その瞬間、アステリアは、雷が鳴ったわけでもないのにビクリと身を縮めるのだが、ワルツはその姿を見ても特に何も思わなかったのか——、


「例えばだけど、持ち込みとか出来るのかしら?」


——試験の内容のみに触れて、アステリアの姿についてはそのままスルーした。


『持ち込みですか……。まぁ、この国の方々は、魔法を使う際、必ず杖を使われていますから、杖と言い張って変身セットを持ち込むのは許して貰えそうな気がしますね。でも、一度、ハイスピア先生に確認してからの方がいいのではないかと』


「そうよね……。でも、戻るのが面倒臭いわね……」


『……仕方ありません。ちょっと聞いてみますよ』


「……えっ?」


  ◇


 同時刻、学院にあるハイスピアの研究室。そこでは、ハイスピアが明日の中間試験に向けた準備を進めていた。


「ひぃーーーっ!たった一日で中間試験の準備とか、ウチの学院長、私の事が嫌いなのだわ!」カリカリカリ


 今回の中間試験は、本来、中途入学のワルツたちには適用されず、次回の期末試験からテストらしいテストが行われるはずだった。ところが今回の中間試験は、特別教室の人員を選抜する試験を兼ねていたので、急遽、ワルツたちも試験の対象になったという経緯があったのである。


 特別教室の創設には賛成していたハイスピアだったが、まさかこんな展開になるとは思わず……。ヒィヒィ言いながらテストを作成していたというわけだ。


 そんな時。


   コンコンコン……


 研究室の扉をノックする音が響いてくる。


「部屋には誰もいません!お帰りください!」カリカリカリ


 ハイスピアが声を上げると、扉の向こう側から声が飛んできた。


『先生!僕です!ポテンティアです!少しだけ確認したいことがあるので、お時間、よろしいでしょうか?』


 扉の向こう側から、ハイスピアが受け持つクラスの生徒ポテンティアの声が聞こえてきたのだ。


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