14.8-03 試験3
ひとまず、魔法の使えないワルツ(とポテンティア)の事はさておいて。明日の中間試験に向けて、魔法が使える者たちによる魔法の練習が行われることになった。場所は学院内部の訓練棟——ではない。訓練棟で安易に魔法を使えば、学院が敷地もろとも粉々に吹き飛ぶ可能性があるからだ。
「……ちょっと、意味が分からないのですが……」
「なに、ア嬢の魔法を見ておれば、自ずと理由は理解出来るのじゃ」
「また人を馬鹿にして……いいもん!」ぷんすか
「どうする?ポテンティア」
『内なる自分たちと会議中なのでしばしお待ちを……』
そんなやり取りを交わす一行がやってきたのは、森の中にある湖の畔。森の中だけでなく、湖の中にも魔物が住みついていたので、湖の畔には誰も住んではいなかった。
しかし、魔法の練習をするには打って付けの場所だった。ルシアが遠慮無く、魔法を放ったとしても、誰にも被害が及ばない場所だからだ。もちろん、爆風が生じる爆発系の火魔法や、広域殲滅系の超大規模魔法は除くが。
湖の畔にやってきて、周囲に船も人影もない事を確認したルシアは、湖に向かって人差し指を向けた。その直後——、
ズドォォォォン!!
——と彼女が指を指していた先で、湖に水柱が立ち上る。高さは50m程度。水の中で何か爆発物でも破裂したのではないかと思えるような凄まじい水柱だ。
現象はそれだけではない。その立ち上った水柱が一瞬にして凍り付いたのだ。それと同時に、湖すべてが時間を止めたかのようにピシリと凍り付いた。
「……はえ?」
事情が飲み込めないアステリアは目を点にして固まる。
そんなアステリアに、テレサが説明する。
「ア嬢の氷魔法……それも、上級でも広域殲滅魔法でもない、ただの初級の氷魔法なのじゃ」
「え、えっと……ルシア様って、土魔法だけじゃなくて、氷魔法も得意なんですね……」
「む?いや、別にそういうわけでないのじゃ?この際じゃから見せてはどうかの?ア嬢」
「えっ……。これ以上、湖に魔法を撃ち込んだら、お魚さんとかみんな死んじゃうよ?」
「じゃぁ、空に向かって打てば良かろう?」
「んー……別に良いけど、空は空で面倒な事になりそうだけどなぁ……」
ルシアは少し困ったような表情を浮かべた後、ワルツに向かって視線を向けた。魔法を放っても良いか、姉の意見を聞きたかったらしい。
しかし、ワルツは、ポテンティアと共に、何やら議論に熱中していたようなので……。ルシアは自己判断で魔法を撃つことにしたようだ。
「そうだなぁ……とりあえず、一番影響が少なそうな雷魔法を撃ってみようかな?」
ルシアはそう言って空に向かって手の平を掲げた。
次の瞬間——、
チュィィィィン……ズドォォォォン!!
——ルシアの手から光の柱が放たれ、空の彼方に向かって消え去った。
「…………」ぽかーん
「……ア嬢?あれは光魔法なのではないかの?」
「違うよ。雷魔法だよ?雷魔法って、電子を飛ばす魔法でしょ?魔力をたくさん使って、たくさん電子を発生させれば、あんな感じになるんだよ?もしかしたら、空気中の塵も一緒に帯電させて飛ばしてるかも知れないけど……」
「か、荷電粒子砲……」
「ちなみに、光魔法はこっち」
チュィィィィン……ズドォォォォン!!
「……いや、変わらぬじゃろ」
「こっちは光だよ。さっきのは電子そのものを飛ばしてたけど、こっちはちゃんと電子の波だもん。まぁ、光によってプラズマ化した空気の分子が、光エネルギーを受けて加速して飛んで行ってる可能性も捨てきれないけど……」
「や、やっぱり荷電粒子砲……」
「ちなみに荷電粒子砲っていうか、荷電粒子ビームは——」
チュィィィィン……ズドォォォォン!!
……ルシアが図太いビームを乱射している間、アステリアは空を見上げて「はは……」と引きつり笑いを浮かべていたようだ。どうやら彼女の思考も、目の前の出来事を理解出来なくなって、ハイスピアのように現実逃避し掛かっていたらしい。
なお、ワルツとポテンティアは、ルシアの魔法に慣れていたためか、真横でビュンビュンと凶悪な(?)魔法のビームが放たれていても一切動じることは無く——、
「カンニング……っていうか、ルシアのオートスペルに頼るのは拙いわよね?」
『バレたら即退学なので、それは頂けません。やはり、テレサ様の言霊魔法の方が……』
「あまり言霊魔法を使いすぎると、頭の中がおかしくなる気がするから、やめておいた方が良いと思うわ?」
『……ですね』
——テスト対策について話し合っていたようである。まぁ、テスト対策というよりは、テストをどう切り抜けるかの対策、と表現した方が適切かも知れないが。
ろ、六月が終わってしまうのじゃ……っ!




