14.8-01 試験1
ポテンティアの面接が終わった後。教職員たちの間で会議が行われた。騎士、魔法、薬学の枠に填まりきらない大型新入生(?)をどうするかについての会議だ。
議論の対象になっていた新入生たちは、未だ試験を行って実力を確認するというところまでは行われていなかったが、それでもマグネアは新入生たちが圧倒的な才能を秘めていると確信していたようである。担任教師であるハイスピアの発言から、既に初等科の授業どころか、中等部レベル、あるいは高等専攻科レベルの授業を行っているという報告があったことからもそれは確実で、今のまま新入生たち——つまりワルツやポテンティアたちを薬学科に所属させておくのは勿体ないのではないか、という話になっていたのだ。
そしてもう一つ。彼女たちの話が会議に取り上げられた大きな理由がある。
「……かねてから議論されてきた特別教室を創設すべき時期に来ていると思うのです」
学生たちの中でも、特に優秀な学生たちを集めて授業を行う特別教室の創設。学科の垣根を越えて、好きに授業を受けることが出来るという、ある意味、大学のようなシステムである。様々な分野の知識を学べる反面、進級には普通の学科で進級するよりも厳しい単位数が必要になり、学生たちが対応できなくなる可能性があったので、今まで先送りにされてきた案件だ。
せっかく、優秀な学生を特別教室に所属させた結果、単位が取れずに卒業できないとなると本末転倒だったので、今まで慎重な意見な意見が多く、採用されてこなかった案件だった。しかし、ワルツたちなら話は別。優秀なだけでなく、国外の学生ということもあり、最悪、卒業できなくても問題無いというのがマグネアの考えだったのである。いや、むしろ、卒業できないなど微塵も考えておらず、ワルツたちならどんな厳しい単位数を課せられたとしても必ず成し遂げてしまうだろうという確証を持っていたようだ。
そのアイディアには、マグネアだけでなく、ハイスピアも賛成だった。彼女もまた、ワルツたちなら、どんなに厳しい条件を用意したとしても無事に卒業できると考えていた1人だ。
ただ、2人は元々賛成派。今まで特別教室創設の案件は、多数決で否決されていたのである。
ゆえに、今回も否決される可能性は高かったが、今日に限っては強い助っ人がその場にいた。
「私は学院の運営に口を挟む立場にはありません。ですが、特別教室の創設には賛成です」
ジョセフィーヌだ。その場に集まっている者たちの中では、ワルツたちのことを一番よく知っている彼女にとって、特別教室の創設は推進すべきことだと思えてならなかったようだ。
結果、一部の教員たちの考えが変わる。ただし、ジョセフィーヌが賛成したので自分も考えを変えた、というわけではない。ジョセフィーヌがミッドエデンという大国を味方に付けたがゆえに、政治的な立場が弱くなり、彼女の発言に反対できなかったのである。もしもミッドエデンの存在が無ければ、考えを翻した教師たちは、また異なる結論を出していたに違いない。
その他、ワルツたちの実力を目の当たりにして、考えを変えた教員たちも少なからずいた。政治的な立場に囚われることなく、教師としての立場を貫いている者たちだ。騎士科の男教師などもその1人で、ワルツたちの実技演習を見た際に、感銘を受けて、彼女たちに一目置いていたようである。
こうして、過半数どころか、8割ほどの教員たちが特別教室の創設に賛成することになった。残る2割は慎重派だったり、ワルツたちの事を知らなかったり、あるいは政治的な考えに拘っていたり……。簡単に考えを変えるつもりは無い者たちだ。
しかし、多数決は多数決。彼らがどんなに反対したところで、決定を覆せるものではなかった。
「……賛成多数により、特別教室を創設します。対象者は成績上位の者たちに限定し、学生本人の意向を考慮して、配属を決めていきます。詳細は手元の資料に——」
反対派が最後の最後で意見したこともあり、ワルツたちも同じく試験を受けることになった。成績が悪ければ現状維持。マグネアとしては、ワルツたち全員を特別教室に所属させたかったようだが、学院長権限でもそこまで依怙贔屓にはできず、例外なく全員に試験を受けてもらうことになったのである。
◇
「というわけで、皆さんには試験を受けてもらうことになりました!」
「んあ?試験とな?急じゃのう……」
「おぉ!試験!初めてだね!」
「ちょっと自信があります!」
『これ、僕も対象なんですかね?今日、入学したばかりなのですが……』
「……私、もうダメかも知れない……」げっそり
ハイスピアが試験の実施を告げた際、クラスメイト4人はやる気満々。しかしワルツだけはゲッソリとした表情を浮かべていて、力なく俯いていたようである。ハイスピアの後ろにあった黒板に、こう書かれていたからだ。
[中間試験 1、一般筆記 2、専門筆記 3、専門実技 4、魔法実技]
特に4番。その存在に、ワルツは打ちのめされていたのである。




