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14.7-34 侵略34

「あなたは、当学院に入学して、何をしたいと考えていますか?」


 マグネアのその問いかけに対するポテンティアの返答は——、


『自分を見つけたいと考えています』


——明確な目標があるのではなく、目標を見つけるために入学するというものだった。


 その発言を聞いたとき、マグネアの眉間に皺が寄ったので、ポテンティアは説明を追加する。


『自分に出来る事は何か、何を成し遂げられるのか……。今の僕には何も分からないのです。あまりに何も知らなすぎて、判断がつきません。学生になり、知見を広げることで、その答えを見つけたい……。レストフェン大公国の最高学府である中央魔法学院であれば、鳴りたい自分の姿が見つけられるのではないか……。そう考えています』


「ふむ……なるほど……」


 マグネアはポテンティアの言い分を聞いて納得げに相づちを打った。


 そんな彼女は内心でこんなことを考えていたようである。


「(それは、単に明確な目標をもっていないだけでは?などと聞き返せば、どんな返答が戻ってくるのでしょうね?しかし、学院に入る目的としては、強ち見当違いというわけでもありません。強いて指摘する事があれば——)」


 色々と考えた末、ポテンティアに問いかける質問の内容が決まる。


「では、その目標——自分を見つけるために、具体的にどのようなシナリオを考えているか説明できますか?」


 13歳(?)の少年に向ける質問として、少し意地悪が過ぎるだろうか……。そんなことを考えながらも、マグネアは問いかけた。


 対するポテンティアは、考え込むような素振りを見せず、堂々と返答する。


『全力で学生生活を謳歌するだけです。明確な目標が未だ見えていないのですから、藻掻き苦しんで探すしか無い……。日々の生活を全力で生きていけば、道は自ずと開かれるはず……。僕はそう信じています』


 そう言い切るポテンティアを前に、マグネアは感心すると共に戸惑っていた。もしも本当にポテンティアが13歳だとすれば、精神面では既に完成されたレベルにあり、また、"賢者"という人物に学業を学んでいるのだとすれば、学院で教えられることは何も無い可能性があったからだ。


「(まぁ、学生が学ぶだけでなく、教師も学生から学ぶというのが学び舎のあるべき姿ですから、教えられることが無いという理由で不合格にするのはあってはならないことです。しかし、この子を学院で学ばせるのは難しそうですね……。教えられる教師がいるとは思えません)」


 と、マグネアが内心で考え込んでいると、感動のあまり泣きそうになっていたハイスピア——ではなく、マグネアを挟んで反対側にいたジョセフィーヌが、ここで初めて口を開いた。


「ポテンティアさんは、この学院のどの学科に入りたいと考えていますか?」


 ジョセフィーヌのその発言に、マグネアは「ん?」と考え込む。というのも、ポテンティアが入学した場合、彼の所属は、ワルツたちミッドエデン関係者がいる薬学科に入ることが確定しているからだ。


 そのことはジョセフィーヌも分かっていたはずだが、彼女はそれでも問いかけたようである。何か考えがあってのことだったらしい。


 対するポテンティアも、事前に薬学科しか選べないことを聞いていた上、ワルツたちがいる薬学科に入る気満々でいたので——、


『それはもちろん、薬学科です』


——と即答する。


 するとどういうわけか、ジョセフィーヌは、残念そうな表情を浮かべた。そこにはこんな理由があったようだ。


「そうですか……。もしもあなたのような武芸に秀でた方が騎士科に入れば、その才能を遺憾なく発揮して、素晴らしい騎士になれると思ったのですが……」


 そんなジョセフィーヌの発言に、ポテンティアは肩を竦めた。


『申し訳ございません。ジョセフィーヌ様。僕は、誰かを傷付ける人物よりも、誰かを救う人物になりたいのです。もちろん、戦う事で人を助けられるという意味では、騎士の方々も人を救っていると言えますが、僕は剣で救えない方々も救いたいのですよ。……僕はポテンティア()。力は十分過ぎるほど頂いておりますので、これ以上は必要ありません。過ぎたる力は、自身も他人も傷付けるだけのただの暴力にしかならないとよく知っておりますので』


 ポテンティアはそう言って口を閉ざした。言いたいことは言った、といった様子だ。


 対するジョセフィーヌたちが、ポテンティアの発言にどんな感想を抱いたのかは不明である。ただ、マグネアは、書類の右上の方に、こんなサインを記入したようだ。


 ——合格、と。


面接の場でゆっくりと考えられる暇があるなら、いくらでも言葉は出てくるのじゃがのう……。

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