14.7-33 侵略33
ポテンティアの実技試験は、歴代の入学試験者の中で、最も静かに終わった。もちろん結果については言うまでも無いだろう。
次の試験は面接。ワルツたちの時はハイスピアが一人だけで面接官を行う、というものだったが——、
「では、受験番号1番。ポテンティア君。そこに座りなさい」
『はい。よろしくお願いします(おや?ワルツ様に聞いていた話と大分違いますね?)』
——ポテンティアの面接官はハイスピアだけではなかった。そればかりか、1人だけではなく、3人もいるという状況で、すこしばかり難易度が上がっていたようである(?)。
とはいえ、面接官は知らない者たち、というわけではない。担任のハイスピアはもちろんのこと、学院長のマグネア、それにジョセフィーヌという3人構成だ。
そんな3人からどんな質問が飛んでくるのかとポテンティアが構えていると、面接と言えばコレ、と言えるような定番の内容が飛んできた。
「では、自己紹介をお願いします」
特に変わった事もない普通の質問。ポテンティアとしても、事前に返答の内容を考えていた質問だった。
だが、彼にとっては、とても悩ましい内容だった。素直に自己紹介をすると、まず信じて貰えない内容になるからだ。まさか、自分は生後1年ほどの空中戦艦です、など言うわけにはいかないのだから。
ゆえに、彼は、事前に用意しておいた回答を口にする。
『僕はポテンティア。今年で13歳になります。出身はミッドエデン共和国という国で、レストフェン大公国から見て、ずっと東の彼方、海の向こう側にある国です。趣味は読書で、主に錬金術に関する本をよく読みます。特技は……早寝早起きです』
特技は気配を消すこと、と答えようとしたポテンティアだったが、突っ込まれるとボロが出そうだったのでやめておくことにしたようである。
対する面接官——特にマグネアは、少し考え込んだ後で、ポテンティアに質問を飛ばす。
「あなたの国ミッドエデンで、あなたは貴族なのですか?」
ポテンティアの言動や雰囲気を見る限り、マグネアの目には、ポテンティアが平民には見えなかった。また、ワルツたちがミッドエデンでかなり上層の立場にいることを知っていたこともあり、彼女たちと行動を共にするポテンティアが低い立場の人物だとはやはり思えなかったのである。
対するポテンティアは、悩むこと無く即答する。
『いえ、違います。貴族ではありません。ただのせn……平民です』
あやうく、ただの戦艦といいそうになって、言葉を引っ込めるポテンティア。
そんな彼の反応にマグネアはピクリと眉を動かすものの、平民だと言い切ったポテンティアを追求しても真実は出てこないと思ったのか、それ以上問いかけるようなことはしなかった。
ただし、その代わりに新しい質問をぶつける。
「では、あなたはこれまで、どのような生活を送ってきたのですか?学生ですか?」
貴族ではないとするなら、なぜポテンティアは、見た目の年齢に似合わない言動をするのか……。マグネアはその理由を、直前の質問とは異なる観点から明らかにしようとする。
対するポテンティアは、マグネアの意図を感じ取りながら、発言しても問題無いと思えるような内容を吟味しつつ、こう返答する。
『ミッドエデンには、"賢者"と呼ばれる知識に秀でた方がいらっしゃいます。その方の下で、様々な事を学んだのです。本の読み方、魔法の基本的な知識、森での生き残り方などなど……』
感慨深げに話すポテンティアを前に、マグネアはようやく合点がいったようだ。その"賢者"という人物の下で教育を受けた結果が、今のポテンティアの振る舞いなのだ、と。
「なるほど。では——」
マグネアの表情からは大分険しさが消えていて、面接は淡々と進んでいく。
そして最後。彼女は、これまで面接を行ってきた学生・教員のすべてに聞いてきた質問を、ポテンティアへと投げかけた。
「あなたは、当学院に入学して、何をしたいと考えていますか?」
そんなマグネアの問いかけに対し、ポテンティアは返答するのだが……。彼の返答は、マグネアが今まで様々な者たちから聞いてきたどの返答とも異なっていたようである。




