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14.7-32 侵略32

 その同時刻。


「では、今から実技試験を始めます」


『よろしくお願いします』


 ポテンティアの入学試験が始まっていた。試験官はハイスピア。彼女が試験に駆り出された影響で、ワルツたちに対する授業は自習となっている。


 とはいえ——、


「ポテちゃん、頑張ってねー」

「無茶して学院壊さないでよ?」

「記憶を消すの、意外と面倒臭いゆえ、自重するのじゃ?」

「楽しみです!」


——ワルツたちの姿も、ポテンティアの試験会場となっていた訓練棟にあって、皆で彼の試験を眺めていたようだ。目を離すと何をするか分からない生徒たちだったこともあり、ハイスピアとしては目の届くところに置いておきたかったらしい。というわけで、ワルツたちも、訓練棟で自習という名の実習中である。


 まぁ、それはさておき。


「ではポテンティアくん。この円の中から出ないようにして、あの的を攻撃してください」


 ワルツたちの試験がそうだったように、実技試験は、離れた場所にある的を魔法などで攻撃するというものだった。


 ちなみに、ワルツたちが試験を行う際は、訓練場には誰もいなかったが、今日はかなりのオーディエンスたちがいたようである。ワルツたちもその一部だ。その他、訓練場で授業を行っていた多数の学生や教師たちも、訓練や授業の手を止めて、ポテンティアの試験を見ており、訓練棟の中はちょっとしたお祭り騒ぎの状態。普段には無い喧噪が、建物を包み込んでいたようである。


 そんな中でも特別に存在感を放っていたのは、学院長のマグネアだった。彼女にとってポテンティアは、孫娘に近付く得体の知れない"虫"のようなもの。彼がどんな人物なのかを細かく観察しておきたかったらしい。


 一方、ポテンティアは、無数の目に晒されながら試験をする状況に戸惑っていたかというと、そんなことはなかったようである。どんなに見つめられても、あるいは追い詰められても、これから行う行動のパフォーマンスに影響が出ることは無いからだ。


 ハイスピアが一通りの説明を終えたところで、ポテンティアはわざとらしく手を上げて、ハイスピアへと問いかける。


『先生!質問です!』


「はい、何でしょう?」


『ここから動かずに、的を攻撃すれば良いんですよね?』


「はい、その通りです」


『その場合って、魔法を使わなければダメなのでしょうか?』


「……いいえ。必ずしも魔法を使う必要はありません。ですが、武器の携帯を認めていない以上、魔法で攻撃せざるを得ないはずです」


『なるほど。武器を使わなければ良いんですね』


 と、何やら納得げな反応を見せた後で、ポテンティアは言った。


『先生!的を壊しました』


「えっ……まだなにもやって……え゛っ?!」


 ハイスピアは的の方を振り返って唖然とした。的の上半分が消えていて、土台しか残っていなかったからだ。


 その様子を見ていたオーディエンスたちも、いつの間にか的が消えていることに驚いていたようである。いつ的が消えたのか、どうやって消したのか、皆、同じ話題で持切りになっていた。


 驚いていたのはマグネアも同じだ。一切の魔法の発動を感じられず、また音も光も上げないままに的が消滅するなど、彼女の知識の中には無い現象だったのだ。


 いったい何が……。皆が疑問に思っていることを、ハイスピアが代表して問いかける。


「ど、どうやって的を壊したのですか?」


『どうやって?なんてことはありません。マイクロマシン……もとい、魔法(マジック)です』すっ


 そう言ってポテンティアが虚空に手をかざすと、そこに壊れたはずの的の上半分が現れる。


「……え」


『ちなみに増やすことも出来ます』すすすっ


「ちょっ……」


『材質も変えられます。例えば強化オリハルコン製とか』ズドンッ


「あは……あはははは〜」ゆらゆら


『おっと、これは申し訳ありません。マジックを見せすぎて、ハイスピア先生の頭が過負荷状態になってしまったようですね』


 ポテンティアはそう言って肩を竦めた。


 その直後の事。訓練棟の中に歓声が沸き上がる。皆、ポテンティアのマジックを見て、みな興奮したらしい。


 ポテンティアはそんなオーディエンスたちに対し、恭しく礼をした。それがより一層の好感を生んだらしく、訓練棟の中は大きな歓声に包まれた。


 ただ1人だけ——、


「…………」


——マグネアは酷く警戒した様子で眉を顰めていたようだが。


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