6前-14 修復編A7
「お姉ちゃーーん!!」
ボフッ!
「・・・誰?」
飛びついてきた少女に固まるワルツ。
一方、ルシアは、そんなワルツの様子に不思議そうな顔を向けていた。
「どうしたのお姉ちゃん?」
「え・・・ルシア?・・・貴女、見えないの?」
「何が?」
「・・・」
どうやら、ルシアには、見えていないらしい。
そんな彼女の様子を見たワルツは、半ば確信を持ちながら、抱きついて来た少女の方に視線を向けて言った。
・・・どうやら、この少女は、
「もしかして、あなた・・・エネルギアなの?」
「うん!」
ということらしい。
だが、今までのエネルギアとは大きく異なる点が2つある。
(・・・成長した?)
まず身長である。
先日までのエネルギアは110cm程度。
だが今日は、どういうわけか、130cm程の身長になっていた。
もう一点は、見た目である。
中性的だったはずの顔つきは、随分と女の子らしくなっており・・・その姿は、こう言えるだろう。
「・・・ルシアそっくり・・・」
「・・・えっ?」
姉の思いがけない一言に、思わず疑問の声を上げるルシア。
「?」
・・・エネルギアの方も、不思議そうな表情を浮かべていた。
「・・・何でルシアに似てきたのかしらねー・・・・・・じゃなくて、なんでここにエネルギアがいるのよ?!」
本来なら、全システムを停止しているはずのエネルギアが、ワルツの認知システムに介入できるはずは無いのだが・・・。
「えっとねぇ、再起動した?」
「はぁ?貴女、核融合炉の起動方法分かるの?」
「んーと、よく分かんないけど、えいっ、ってやったら動いた?」
「ちょっ・・・」
(つまり、起動シーケンスを全て無視して、いきなり炉を起動したってこと?っていうか、それ以前に、停止状態でも意識があったってこと?)
理解できない現象を前に、思わず頭を抱えるワルツ。
彼女のニューロチップが過負荷状態に陥っていると、今度はルシアが口を開く。
「エネルギアくん、そこにいるの?」
「うん。いるよ?」
「・・・」
「あっ・・・」
エネルギアの声を聞くことが出来ないルシアと、それに気付いたエネルギア。
「ちょっと待っててね?」
すると、ワルツの認知システムから、エネルギアの姿が消失する。
・・・そして、
サァァァァ・・・・
・・・真っ黒な色をした大量のミリマシンが、エネルギアの外装の隙間(点検口やセンサー口)から液体のようにして流れ出してきた。
そして人形を形作る。
『ごめんねルシアちゃん。これなら話せる?』
「えっ・・・エネルギアくんって真っ黒・・・っていうか、女の子だったの?!」
『んー、真っ黒なのは、そういう機械を使ってるからだよ?でも、女の子とか男の子とかっていうのは、よく分かんないかな』
「・・・そ、そうなんだ・・・」
突如として現れた真っ黒なミリマシンが、少女の身体を形作って突然話し出し、剰え性別が分からないと言い出したことに、混乱するルシア。
だが、すぐに気を取り直し、つい先程まで心に刺さった棘のように痛みを放っていた心配事がどうなったのかを、彼女に直接確かめることにした。
「・・・もう、身体は大丈夫なの?」
壊れていた部品は交換して、元通り(?)になっているのである。
これで痛みを感じているようなら、ワルツにもルシアにも手の打ちようが無かったのだが・・・
『うん。もう平気だよ?』
「そっかぁ・・・よかった」
幸い、修復は無事に成功したようである。
『ルシアちゃんが直してくれたの?』
「んーとねぇ、全部じゃないけど、お姉ちゃんと一緒に直したよ?」
『ありがとう、ルシアちゃん!』
「う、うん・・・」
礼を言ってくるエネルギアが、やはりどこか自分の姿に似ているような気がして、鏡からお礼を言われているような妙な気持ちになるルシア。
「(・・・テレサちゃんもコルちゃんのことを見て、こんな気分になったのかなぁ・・・)」
ルシアがそんな事を考えていると、過負荷状態だったワルツが、ようやく現実世界へと戻ってくる。
「もう大丈夫なのね?エネルギア?」
『うん。もう痛いところは無いよ?』
その言葉を聞く限り、修復した部屋だけでなく、無理やり起動しただろう核融合炉の方にも問題は無いようである。
「そう・・・。でもどうして成長したのかしら?」
『僕も分かんない』
「・・・まぁ、そうよねー」
とは言え、ワルツには大体の目星は付いていたのだが。
まず、そもそもエネルギアがこの世界に生じる要因になったのは、オリハルコン魔法合金をターボ分子ポンプに使ったことが原因だった。
そして、今回、入れ替えた部屋ユニットの構造材にも、同じく魔法合金を採用したのである。
つまり、エネルギア(飛行艇)の魔法合金採用率が上がれば上がるほど、エネルギア(少女)は成長していく、ということなのだろう。
(・・・そう考えると、船体全体が魔法合金になったら、お婆ちゃんになっちゃうのかしらね?)
・・・さて、どうなることやら。
ワルツとルシアが成長したエネルギアと話していると、
「おう、ワルツ殿とルシアちゃん。エネルギアの修理は順調か?」
エネルギアの修復状況を聞きに来たのか、あるいは今日も医務室で眠っているだろう勇者の様子を見にきたのか、大工房に剣士が現れた。
すると、
『あっ・・・』
剣士に反応するエネルギア。
『ビクトールさーーーん!!』
ドゴォォォ!!
そして彼女は、剣士に抱き付くために猛スピードで走っていく。
「・・・エネルギアか。流石の俺でも、毎回吹き飛ばされていたら、いい加減学しゅグハァ!!」
・・・学習能力以前に、成長したエネルギアの突進速度を見誤った剣士が轢殺(?)される。
「・・・さてと、私はホログラムの修復作業に戻るわね?」
「・・・うん。分かったよ。何か手伝うことがあったらいつでも言ってね?」
・・・そして、ワルツとルシアは、見るも無残な姿になった剣士から眼を背けながら、その場を静かに離れていくのであった・・・。
「・・・んはっ?!」
巨大な空洞の下、何やら柔らかい物体の上で、眼を覚ます剣士。
『あ、ビクトールさん。あの・・・ごめんなさい。いつも吹き飛ばしちゃって・・・』
剣士が意識を取り戻した事に気付いた真っ黒なエネルギアが、彼の顔を覗き込み、申し訳無さそうな表情を浮かべていた。
要するに剣士は、エネルギア(ミリマシン集合体)の膝枕を受けていたのである。
「エネルギアか・・・。今日こそ避けられると思ったんだが・・・思い通りに行かないもんだな」
本来、前衛役であるはずの剣士が、敵からのタックルを避けられない(あるいは耐えられない)ことは、これからの戦闘を考えるなら致命的な問題であった。
まぁ、エネルギアvs勇者パーティーという構図になるわけではないのだが、それでも、魔族領域にいるだろう強い魔物たちとの戦闘を考えるなら、懸念すべき問題であることに間違いはないだろう。
故に彼は、突進してくるエネルギアの事を全く責めるつもりはなく、ただひたすらに、自分自身の不甲斐なさを感じていたのである。
『・・・怒ってない?』
「あぁ。怒る理由なんて無いからな」
『・・・』
怒っていない、という剣士の言葉を受けても、シュンとした表情の消えないエネルギア。
「なぁ、エネルギア。どうしていつも、俺を見たら突進してくるんだ?」
そんな剣士の問いかけに、エネルギアは不思議そうに頭を傾げてから、口を開いた。
『んー、多分、そこにビクトールさんがいるから?』
「・・・なんだそれ?」
『なんか、嬉しくなっちゃうの』
「・・・よく分からんな・・・」
エネルギアの話を聞く限り、彼女(?)にとっての剣士は、登山家にとっての山のようなものなのかもしれない。
『でも、今度からは頑張って、抱きつかないように我慢する・・・』
悲しそうな表情を浮かべて、エネルギアは言った。
しかし、そんな彼女(?)の表情を見て、何を思ったのか、
「いや、良いんだ。俺が避けたり受け止められたりできるようになればいいだけの話だから、エネルギアは今までどおり抱きついてきていいんだぞ?」
と言いながら、笑みを浮かべる剣士。
その言葉に、深い意味は無いようである。
どうやら彼は、エネルギアのタックルを、鍛錬の一部に組み込むつもりらしい。
そんな剣士の言葉がエネルギアにどう映ったのかは分からないが、
『・・・!いいの?!』
と、とても嬉しそうにして、眼(?)を輝かせた。
「えっ?あ、あぁ・・・できれば、程ほd」
『やったぁ!』
「・・・」
大喜びするエネルギアを前に、なんとなく嫌な予感しかしない剣士。
そして彼は、嬉しそうな表情を浮かべたエネルギアに、早速、思い切り、抱きしめられたのである・・・。
最近思うのじゃが、ビクトールはエンデルシア国王並みの生命力ではないじゃろうか・・・。
というわけで、修復編Aが終わって、次からちょっとだけ(?)話が進むのじゃ。
んー、どう書いたら良いのじゃろうな・・・・・・難しいのじゃ。
特に、サブタイトルがのう・・・。




