14.7-29 侵略29
そこから少し離れた場所。具体的には、学院から真っ直ぐと陸橋が延びる場所にあった村の地下。そこにいたワルツたちの所へと連絡が入る。
『ワルツ様。今回の騒動の一件、黒幕の一部が判明いたしました』
と喋るのは黒い虫。ポテンティアの分体だ。まぁ、明確な本体は存在しないので、分体と表現して良いのかどうかは微妙な所だが。
そんな彼のことを、ルシアは、10tと達筆で書かれた木槌で押しつぶそうとする。わざわざ重力制御魔法を掛けて、リアル10tハンマーとして使おうとしているらしい。
ワルツはそんな妹の事を自身の重力制御システムを使いやんわりと阻止すると、ポテンティアに対して問いかけた。
「黒幕?何かあったの?(一部って何よ?一部って。たくさんいるってこと?)」
『先ほど、学院内に侵入者があり、撃退したのですが、捕まえた者たちの記憶を読み取ったところ、レストフェン大公国の南部に隣接するエムリンザ帝国の兵士である事が判明しました。どうやら、第一皇女の差し金で動いていたようです』
「んーと?色々とツッコミどころがあるんだけど、一番大きな所だけツッコむわね?……貴方、人の思考を読めたっけ?」
『いえいえ、思考は読めませんよ。マイクロマシンたちを駆使して、頭に電流を流して、脳波を読み取って——』
「あー、うん。分かった。……全然、分かんないけど。ようするに、無理矢理読み取った、ってことね?」
『はい。細かい手段についてはコルテックス様に教わりました』
「あの娘、何て恐ろしい事を教えてるのよ……」
『それで、エムリンザ帝国に報復攻撃を行いたいのですが、許可頂けますか?』
「どうして私に……」
『コルテックス様に許可を頂くようなことをすれば、もしかするとワルツ様の思惑に反することになるかも知れませんが、ワルツ様に許可を頂ければ、誰も文句は言いませんので。つまり、ミッドエデンで最高権力を持っているのはワルツ様なので、ワルツ様に許可を頂こうと思ったわけです』
「えっと……私、ただの町娘……」
ただの町娘なのだから、権力などあるわけが無い……。と、ワルツは言い訳を口にしたかったようだが、ポテンティアが真面目に自分に攻撃許可を求めていることは分かっていたので、冗談は程々にしておくことにしたようである。
「まぁ、事情は分かったわ?ちなみに、どんな攻撃をするつもり?」
『もちろん、死人を出すつもりはありませんよ。ちょっと、旧石器時代に戻って頂こうかと思ったのです。そうすれば、少なくとも僕たちが学生をしている間は、ハイリゲナート王国に手が出せないはずですから』
「旧石器時代とか怖っ……。EMP攻撃でもあるまいし……。差し詰め、マイクロマシンを使って、怪しいことでもやろうとしてるんでしょ?」
『ご名答です。で、僕の本体がエムリンザ帝国の上空に到達したのですが、攻撃してもよろしいでしょうか?』
「んー、まぁ、良いんじゃない?人が死なないなら」
『かしこまりました。……諸君。攻撃許可が出た。作戦開始だ』
ワルツの適当すぎる攻撃許可を受けた後、ポテンティアが動き出す。その結果、少し後でワルツは後悔することになるのだ。尤も、彼女が自身の決定に後悔しなかったことなど、一度も無いのだが……。
◇
『ご、ご報告申し上げます。学院に向かわせていた精鋭部隊の者たちの消息が途絶えたようです……』
「ちょっ……どういうことなの?!」
エムリンザ帝国の城にいた第一皇女の元へと、大臣から急ぎの連絡が入る。学院急襲作戦の失敗を伝える連絡だ。
『転移魔法で学院の外壁に到達したという報告を最後に、定時連絡が途絶えております。恐らくはジョセフィーヌ一派に撃退されたか、森の魔物に襲われたのではないかと……』
「なんてこと……。予備のプランはあるのでしょうね?!」
『はっ!第二波、第三波の攻撃を準備中です。間もなく攻撃に移ります』
「……良いわ。必ず学院を……ジョセフィーヌを落とすのよ!」
『御意に』
そんな大臣からの連絡を最後に、遠距離通信の魔道具が停止する。
結果、誰もいなくなった第一皇女の部屋に、部屋の持ち主の深い溜息が木霊した。
「……ダメね。潮時だわ」
彼女はそう言ってテラスへと向かおうとする。……が、その直前、空の様子が普段と異なっている様子に彼女は気付くことになった。
彼女の部屋からは、この時間、月が見えるはずだった。ところが、今この瞬間、月は見えなかったのである。もちろん、曇りでもなければ雨でもなく、先ほど大臣と会話をするまでは確かに月が夜空に浮かんでいたはずなのだ。
「んなっ……」
暗い夜空に向かって目をこらした結果、第一皇女は唖然とした。彼女は気付いたのだ。空に何か浮かんでいる、と。
それから間もなくして、空から雨のようなものが降り注ぐ。それは、雨ではない。1つ1つがカサカサと音を立てる、無数の黒い虫たちだった。
カタス☆トロフ!




