14.7-28 侵略28
『呆気ないですね。制圧を終えたようです(捕まえた襲撃者たちは、後で頭の毛を永久脱毛させて、奴隷商にでも売り飛ばしておきましょう)』
女子寮の屋上から襲撃を監視していたポテンティアは、分体たち(?)からの報告を聞いて、ホッと肩の力を抜いていた。学院関係者は誰一人として被害を受けていないという報告を聞いて、安堵したらしい。
一方、同じく屋上にいたミレニアは、外壁の方で上がった火柱に驚いた後、ポテンティアの言葉を聞いて、二度驚いた様子だった。というのも、襲撃が始まってから、襲撃者の制圧が終わるまでに10秒も掛かっていなかったからだ。
ミレニアにとっては、ほぼ一瞬の出来事。ポテンティアの発言を聞いていたのがミレニアでなければ、彼のマッチポンプなのではないかと疑うほどの制圧速度だ。むしろ、ミレニアも一瞬はポテンティアの自作自演なのではないかと疑ったようだが、ポテンティアがそんな事をするはずはない、とすぐに考えを改めたようである。
ゆえに、彼女の口から零れた言葉は、ポテンティアを疑う言葉ではなく——、
「いったい、誰が襲撃を……」
——という、襲撃者が誰なのかを問う言葉になった。
対するポテンティアは、一瞬、口を滑らせかけるが、すぐに考えを改めた。真実をミレニアに話して良いか判断が付けられなかったのだ。
『……どうやら、真っ黒な装備を身につけた男たちが襲撃してきたようです。ミレニアさんは誰が襲撃してきたのか、予想がつきますか?』
知っているとも、知らないとも言わずに、ミレニアの推測を尋ねるポテンティア。
するとミレニアは、少し考え込んだ後で、自身の考えを口にする。
「分かりません……。ただ……公都にいる軍の方々ではないと思います」
『それは何故?』
「生じた火柱は中級魔法のようでしたが、レストフェン大公国軍には中級魔法を扱える自動杖は配備されていないからです」
『杖を使わずに中級魔法を使ったのでは?』
「その可能性が絶対に無いとは言えませんが、確率はかなり低いと思います。お恥ずかしながら、レストフェン大公国は、強い魔法使いが殆どおらず、軍人も研究者たちも、皆、自動杖に頼っているのです。大公国中から中級が使える魔法使いばかりを集めれば、今回のような複数の場所で中級魔法を使うというのも不可能ではないと思いますが、現実的でもないと思うのです」
『なるほどー。では他に考えられる犯人は、どこのどなたなのでしょう?』
「……この国の中にいないとすれば、国の外。多分、南にあるエムリンザ帝国ではないかと」
『……それは何故?』
ポテンティアは暗闇で目を細めながらミレニアの返答を待った。彼女の推理が中々いい線を行っていると思ったらしい。
「表向きはレストフェン大公国とも良好な関係を築いているように見えますが、かの国はレストフェン大公国に嫉妬していると言われています」
『嫉妬?』
「ポテンティア……ポテくんは、なぜ自動杖の技術が門外不出とされているか知っていますか?」
『……なるほど。自動杖はレストフェン大公国独自の技術で、エムリンザ帝国は自動杖の技術を狙っている、と』
「そう言われています。まぁ、私も、人から聞いた話なので、自信があるわけではありませんけどね。あ、そうそう。今の話は私が言ったと言わないでくださいね?おb……祖母に怒られてしまうので……」
『えぇ、もちろんですとも。しかし、困りましたね……。僕たちが平和な学生生活を送るためには、まず、襲撃者の方々に黙って頂く必要がありそうです』
ポテンティアはそう言うと、踵を返した。そんな彼の後ろ姿に向かって、ミレニアが問いかける。
「ポ、ポテくん?もう帰ってしまうのですか?」
もっと色々と聞きたいことがあるのに……。そんな副音声を言葉に載せていたミレニアに対し、ポテンティアは言った。
『えぇ、ちょっと大切な用事を思い出しましたので。でも、安心してください。金輪際、学院へは襲撃者が来ることは無いはずですから』
「えっ?」
ポテンティアは一体、何を言っているのか……。ミレニアが問いかけようとした瞬間——、
ビュォォォォォッ!!
——と女子寮の屋上を突風が吹き抜けていく。その風のあまりの強さに、ミレニアは目を一瞬だけ閉じてしまうのだが、その目が開けられたときにはポテンティアの姿は無かったようだ。
ただ……。
「……えっ……なに……あれ……」
ミレニアは大きな異変に気付くことになる。具体的には空。そこに浮かんでいた月が、何か巨大なものによって大きく歪まされていた姿に……。




