14.7-27 侵略27
国名を間違えておったゆえ修正したのじゃ。
リムエンザ→エムリンザ
学院の外壁で生じた火柱は、1箇所だけではなかった。複数の場所で合計4箇所ほど、同時に生じたのである。
その原因は、エムリンザ帝国が派遣した精鋭部隊による破壊活動。強い魔物がいると噂されている森を転移魔法で越えて、直接学院へと跳躍してきた後、学院内部へは転移魔法で入ることが出来なかったので、壁を壊すことにしたらしい。最近、冒険者による襲撃があったために、学院の魔法障壁(ミッドエデンで言う都市結界)が強化されていたのだ。
「各員、目標を忘れるな。対象は大公ジョセフィーヌと、学院長のマグネア・カインベルクの2名。途中、妨害があった場合は、相手が騎士だろうと、子どもだろうと、容赦無く殺せ!」
頭から足の爪先まで、黒い防具に身を包んだ男が、部下と思しき者たちに指示を出す。対する部下たちは、彼の指示に無言で頷いて……。そして、エムリンザ帝国の精鋭部隊は、学院へと足を踏み入れた。
◇
その頃、遠く離れた場所にあるエムリンザ帝国の首都にある城では、とある情報が"女性"の元へと届けられていた。
「森に入った冒険者たちは、何かに襲われたわけではなく、集まってきた虫に身ぐるみを剥がされた……ですって?ちょっと、何を言っているのか分からないのだけれど」
「生き残った者たちが発見されまして、事情を聞いたところ、虫たちに身ぐるみを剥がされて、動くにも動けず、今まで森の中に隠れていたとのことです。皆、揃って同じことを言っておりまするゆえ、虚言、というわけではなさそうです」
「じゃぁ、強い魔物なんて実はいなくて、虫たちが原因だった……ってこと?」
「くだんの"虫"が強い魔物ではないとすれば、ですがな……」
◇
「「「んなっ?!」」」
学院の敷地に入った瞬間、精鋭部隊の者たちは唖然とした。視界の端の方で何かがカサカサと蠢いたと思った直後、自分たちの装備品が、一瞬で蒸発するように消え去ってしまったからだ。
精鋭部隊が唖然として固まっていると、何事かと学生たちや教師たちが集まってくる。そんな彼らを前にして、しかし精鋭部隊の者たちはすぐに我を取り戻し、何事も無かったかのように対処を始めようとした。さすがは精鋭部隊なだけあって、彼らは自分の羞恥心を殺して、任務の遂行を優先する事ができるらしい。
だが。
「ま、魔法が出ない……?」
装備をすべて失ってしまったゆえに、彼らの武器と言えるのは魔法だけ。ところが、突如として魔法が使えなくなってしまっていたのだ。というのも、学院側が用意した魔法ジャマーともいうべきものの影響を受けて、魔法が使えなくなっていたのである。
本来なら、武器か魔法のどちらかが使えれば、ミッションの遂行に大きな支障は出ないはずだった。武器だけでも、あるいは魔法だけでも、どんな状況においても人が殺せるよう訓練された存在が、彼ら精鋭部隊だからだ。しかし、武器も魔法も奪われてしまえば、彼らはただの男たち。
ただ、それでも、彼らの闘志は止まらない。失敗は許されない以上、前に進むしか無いからだ。鍛え抜かれた肉体を武器にして、彼らは真っ直ぐに学院の校舎へと向かおうとする。
だがそれも——、
ズササッ!
「「「ふべっ?!」」」
——皆、何も無いところで突然転んでしまい、それ以上、進めなくなってしまう。
そんな男たちは皆一様に、ふくらはぎや太ももを押さえていた。その内に——、
「「「ギャッ!!」」」
——と声を上げると、仰向けになって、静かになる。ただし、死んだわけではない。
『まったく、夜に騒がしい方々です。全身肉離れのお味はどうですか?まぁ、その表情を見ていれば聞かなくても分かりますが』
男たちの前に、一人の少年が現れる。学生たちも、教師たちも見たことがない、男子学生らしき人物だ。どこから声がしているのか、まるで閉空間の中を反響するようにして喋る男子学生は、リーダー格の男の前にしゃがみ込むと、その頭に手を当てた。
次の瞬間、男は——、
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ゛!!!」バヂバヂバヂ
——到底人が上げるものとは思えないような恐ろしげな叫び声を上げた。
『……ほうほう、なるほどー。エムリンザ帝国の精鋭部隊ですか。これは丁重にお返ししなければなりませんね』
男子学生はそう口にすると、指をパチンッ、と鳴らした。その直後、男たちは黒い繭のようなものに巻かれて暗闇の中に沈んでいく。
その様子に、学生たちも、教師たちも、驚いて目を見開くが、彼らが一番驚いたのは、男たちが消えたことではなく——、
『さて、誰に相談したものでしょうね……』
——男子学生の姿も、闇に溶けるように、その場から忽然と消えていったことだったようだ。




