14.7-25 侵略25
国名を間違えておったゆえ修正したのじゃ。
リムエンザ→エムリンザ
そしてもう一箇所。
「はぁ……想像以上ってどころの話じゃないじゃん。もう滅茶苦茶だよ……」
誰もいない薄暗い部屋の中、自身のデスクに腰掛けながら、深く溜息を吐いている者がいた。広い部屋の中にいた彼女は、最低限の灯火で照らし出されていた机に肘をついて、頭を抱える。
「不安定で不確定な要素が多すぎよ……。何なの?あのミッドエデンって国。本当に、どこの馬の骨なの?」
海の向こうゆえに、ミッドエデンについての情報は無し。少なくともこの1000年ほどは、海を越えて交流にやってきた記録が無い国なのは明らか。そんなものが突然、レストフェン大公国にやってくるなど、"彼女"にとっても、国中の者たちにとっても、完全に想定外のことだったのだ。現大公であるジョセフィーヌも例外では無いはずだ。
国の内外で様々な思惑が渦巻いている中、突然、オーバーテクノロジーを引っさげてやってきた謎の国が、自身の計画に影響を及ぼす可能性はあるのか……。いやむしろ、影響を及ぼさない可能性はあるのか……。部屋の主である"彼女"には、どんなに考えても判断することは出来なかった。長いこと生きている彼女にとっても初めての出来事で、この先どうなるのか予想できなかったのだ。
「……どの手を考えても上手くいくとは思えない……。ジョセフィーヌさえいなければ、もっと自由に動けると思ったけど、現状、そんな状況を越えちゃってるもの……。でも、せっかくのチャンスなのにジッとしてるのは勿体ないし……」
彼女には、決して人には言えない計画があった。それはジョセフィーヌがいると邪魔になること。更に言えば、ミッドエデンがやってきても遂行が困難になる計画である。
彼女は机の上にあった2枚の紙に目を落としながら、再び溜息を吐いた。その紙には様々な文章が書かれていたようだが、2枚とも1番上の方に氏名の欄が存在して、こう書かれていたようだ。……ルシア、それにミレニアと。
自分でも何度目になるのか分からない溜息を吐いた後、彼女はその2枚の紙を机の引き出しに仕舞い込もうとした。その際——、
カサカサカサ……
——と何か黒い影が机の中で蠢くような気配を感じて——、
「ひやっ?!」ガタッ
——思わず飛び上がってしまう。
「な、なんでこんなところに……」
彼女は引き出しの中を恐る恐る覗き込んで、蠢いていた存在を探そうとするものの、引き出しの中にあったものをひっくり返しても、それらしき存在は見つけられず——、
「気のせい……?」
——納得出来なさそうに眉を顰めたのである。
「そういえば、最近、急に黒い虫が増えたね……。誰かの魔法?それにしては魔力も感じられないし……」
彼女はそう言って、部屋の隅の方に視線を向けた。すると、そこでもカサカサと何かが蠢くような気配を感じるが、しかし良く目を凝らしたり、光を当てたりして見直そうとしても、既にそこには虫の姿も気配も無く、ただの壁があるだけ。
「幻覚……?なんか気持ち悪いな……」
果たしていつから黒い虫たちは増え始めただろうか……。ミッドエデンの者たちが学院に出入りするようになってからではないか……。あるいはジョセフィーヌが学院に逃げ込んでからではないか……。それを言うなら、隣国のエムリンザ帝国が、ジョセフィーヌのことを公都から追い出した辺りからではないか……。
この国で起こっているすべての出来事を、まるで手のひらの上で起こっている出来事のように把握していた彼女は、しかし、なぜか思い通りにいかなかったためか、心底疲れたようにボソリと零した。
「……まったく、誰も彼も、どうして私の邪魔をするんだろ……」
部屋の持ち主である彼女は、誰にも聞かれることのない独り言をつぶやき、再び溜息を吐いた。
……彼女の姿をジッと観察している者がその場に潜んでいるとも知らずに。
さて、誰じゃろうのう?




