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14.7-22 侵略22

「なんだポテ、お前、学生じゃなかったのか」


『えぇ。学院の中でワルツ様方の護衛をするためには、学生の服を着ているのが一番差し障りがありませんでしたので』


「なるほどなー。よくやるぜ。俺ならソッコーでバレるわー」


 マグネアとの話が終わった後、ポテンティアとジャックは打ち解けた様子で楽しげに会話を交わしていた。エネルギア内部の見学——もとい探検をする内に、いつの間にか仲良くなっていたらしい。


 そんな幼なじみの様子を見て、ミレニアは呆然とする。


「ジャックがポテンティア様と仲良くしてる……」


 まるで、ありえないものを見たと言わんばかりの様子で、目を丸くするミレニア。というのも、ジャックは基本、ミレニアに近付く男子学生に対して敵対的な態度を取ることが多いからだ。ところが、今そこにいるジャックは、とても楽しげにポテンティアと話していたので、ミレニアとしては驚いてしまったようだ。


 そんなミレニアが直前まで浮かべていた表情に敏感に気付いていたのはジャック——ではなく、学院長のマグネアだった。


「……ニア。少し良いですか?」


 ミレニアの愛称であるニアという名前を口にしながら、マグネアが孫のミレニアに話しかける。そんな2人が横に並ぶと、まるで姉妹のように見えていて、決して祖母と孫という関係には見えなかった。ちなみに姉に見えるのはミレニアの方である。もはや、マグネアの若作りは、若作りと表現できるレベルを超越した"何か"になっていると言えた。


「はい、何でしょう?おばあ……学院長先生」


「今は祖母として話しているので、普段通りの話し方でいいです。そう、それは良いのですがね……ニア。私から言える事ではないのかも知れませんが、あなたは少し、友人を選ぶべきです」


「それはつまり……」


 ミレニアは少し考え込んだ後で、核心に迫る言葉を口にした。


「ジャックとあまり関わらない方が良いと言うことですね?」


「ちょっ?!ミレニア?!」


 ポテンティアとの会話に夢中になっていたはずのジャックだったが、ミレニアの言葉は聞こえていたらしく、彼は焦りに焦ったようだ。彼にとってミレニアは幼なじみであり、友人とは少し違う関係にあったのである。恋愛感情——というよりは、兄と妹の関係に近いと言えるかも知れない。そんな彼女に突き放されるということがどのように感じられていたのか……。その気持ちを文章で表現するのは困難だが、まるで、自分の身体の一部を無理矢理引き剥がされるような、そんな気持ちになっていたに違いない。


 ジャックが顔を真っ青にしながら唖然としていると、マグネアが困ったように眉をハの字にする。


「ニア。彼のことを言っているのでありません」


 もっと怪しい人物が近くにいるだろう……。マグネアはその一言を直接言わずに、副音声に載せて、ミレニアが気付くのを待った。


 ところが、ミレニアが祖母の副音声に気付くよりも先に、ポテンティアが事情を察してしまう。本人の目の前でやり取りをしていたのだから、気付かないほうが難しかったのだ。


『なるほど。つまり、僕がどこの馬の骨とも知れない謎の存在なので、警戒すべきだと仰っているのですね?えぇ、そのお気持ち、分かりますとも。しかも、お孫さんたちに接近しているのだから、警戒されて当然だ』


 オブラートに包まずに、ストレートに副音声を翻訳するポテンティアを前に、マグネアの表情は曇った。肯定するにも否定するにも、自分の考えが孫たちに伝わってしまうかも知れないと懸念したらしい。ミレニアたちは多感な年頃なのだから、保護者としても、教師としても、不用意にデリケートな話題に触れるわけにはいかない……。そんな事を考えていたようだ。


 対するポテンティアは、そんなマグネアの考えも、良く理解していたようである。


『ではこうしましょう』


 ポテンティアがそう口にした瞬間。そう、瞬間的な出来事である。瞬きほどの時間で、彼の見た目が変わったのだ。否、彼ではない。()()と表現すべきか。


『こちらの姿なら、問題無いのでは?』


 ポテンティアは、以前ジョセフィーヌの騎士たちに姿を見せたときのように、女性化したのである。制服もいつの間にか変わっており、顔付きに面影は残っているものの、どこからどう見ても女学生だった。


 その様子にはマグネアもミレニアも驚きが隠せない様子で固まっていたようだ。ジャックなどは——、


「おっ……おっ……おおっ……?!」


——という謎の声を口にする始末。事情を知らない3人は、大混乱に陥っていたと言えるだろう。


 そんな状況の中で、ワルツが一言。


「……うん。ポテが学生になれば、私たちは目立たなくて済みそうね!」


 どうやら彼女は、色々な意味で目立つポテンティアのことを避雷針として扱うつもりでいたようである。


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