14.7-21 侵略21
サブタイトルの番号を間違えておったゆえ修正したのじゃ。
「えっと……ごめん。もしかして、ポテも学生やりたかったってこと?」
ワルツは少し戸惑い気味に問いかけた。しかしそれは、ポテンティアが我が儘を言い始めて困惑している、というわけではない。今までポテンティアの気持ちに気付かず、自分たちだけが学生をしてきたことについて、申し訳なく考えていたのだ。ポテンティアからすれば、自分にはなることのできない学生生活を見せつけられるような形になっていたはずだからだ。
対するポテンティアは、ワルツの問いかけに少し考え込んでから、コクリと首を立てに振った。
『他に何か理由が無いかと考えてみましたが、やはり素直に言うと、僕自身、学生というものに憧れているのです。だって、面白そうではありませんか。皆でお弁当を食べたり、皆で知らない知識を身につけたり、皆で驚いたり、騒いだり、冷凍庫を作ったり……』
「なんか、最後の方は学生とはちょっと違うような気がしなくもないけれど……まぁ、貴方の気持ちは分かったわ?コルテックスたちには適当な事を言っておけば、オーケー出してくれるでしょ。きっと。問題は——」
ワルツはそう言って、マグネアの方へと視線を向けた。
「学院長先生。彼に入試を受けさせて貰えないかしら?もちろん、学費と入学費は支払うから。……ポテンティアが」
対するマグネアは複雑そうな様子だった。孫のミレニアがポテンティアに好意を寄せているのは何となく分かっていたので、どこの馬の骨とも言えないポテンティアのことを学生として受け入れるのは気が引けたらしい。
しかし、マグネアは学院長。公私を混同できる立場にいなかった上、今やミッドエデンの者たちとも密接な関係にあると言えたので、ワルツの頼みを無碍にはできなかったようである。ゆえに彼女はこの機会を最大限利用することにしたようである。
「……良いでしょう。入試を受けることを認めます」
『ありがとうございます』
「ただし、入試に落ちたらそれまでです。あと、入試に受かったとしても、配属されるのは薬学科のハイスピア先生の教室になります。今、ワルツさんたちが配属されている教室です。よろしいですね?」
『もちろん、問題はありません』
「では、明日。入試を受けてもらいます。あと、もう一つ。これは学院長として……レストフェン大公国最高学府の責任者として確認させてください。ミッドエデン共和国は、レストフェン大公国に敵対しないという認識で相違ありませんね?学問を学ぶ者に国境など関係無いと思いたいですが、国に不利益をもたらす可能性のある者を、学生として受け入れることは許可できません。……例えば先ほどのように、敷地内で轟音を上げるなどは論外です」
「んぐっ?!」
「今回限り目を瞑りますが、次は無いと思ってください」
「は、はい……ごめんなさい……」しゅん
「では、あなた——ポテンティアと仰いましたね?あなたの口から回答を聞かせて下さい。あなたはレストフェン大公国に敵対的な考えを持って、この学院に入学しようとしているのか、あるいはそうではないかを」
マグネアは回答をポテンティアに委ねた。それはただの口約束にも見えたが、彼女なりに考えた、ポテンティアの人柄を見抜くための、ある種の面接のようなものだったようである。
対するポテンティアは、ワルツの方も誰の方も見ずに、真っ直ぐマグネアの方へと視線を向けて、端的にこう言った。
『たとえ何があろうとも、僕は皆さんの味方です』
ポテンティアにはそれ以上のことを言わなかった。ゆえに、彼の言葉はいくらでも解釈のしようがあったと言えた。ポテンティアの発言にあった"皆さん"の対象が誰なのか、彼は一言も言わなかったのだ。所謂、言質を取られないよう言葉を選んだと言えるかも知れない。まぁ、ミッドエデンのことを敵に回さないために、敢えて国の名前を口にしなかったとも考えることは出来るが。
対するマグネアは、ポテンティアのその回答を予想していたらしい。ただ、彼のその発言では不足だったり、不合格だったりということは言わなかった。彼女は少し考え込んだ後で、フッと溜息を吐き、こう答えた。
「明確な回答ではなく、合格とは言い難い内容でしたが、そこはこれらのあなた方の行動を見て、どう対応するか考えようと思います。あなたもですよ?ワルツさん」
「は、はい……」しゅん
「ありがとうございます!」
しょんぼりとするワルツと、逆に嬉しそうなポテンティアは、明暗がハッキリと分かれていて、その様子を見ていたマグネアは思わず苦笑してしまったようだ。尤も、一番明るかったのはポテンティアではなく、話を聞いていたミレニアだったので、祖母であるマグネアの表情は途端に曇ってしまったようだが。




