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14.7-16 侵略16

 ジョセフィーヌは即答しなかった。とはいえ、彼女にワルツたちのことを追放するつもりは無かったようである。


 理由はいくつかある。クーデターにより窮地に立たされている自分たちは、ワルツたちに国から立ち去ることにより、尚更に絶望的な状況に置かれること。ミッドエデンから齎される支援物資には、実のところ非常に助かっていたこと。そして何より、ジョセフィーヌ自身はエネルギアのことを怖がっていなかったこと……。むしろ、逆に、ワルツたちの事を追放する理由が、ジョセフィーヌには何一つ思い付けなかったのだ。


 では、考え込んでいたのか……。それは国のトップであるジョセフィーヌらしい考えがあってのことだった。


「ワルツ先生は、自動杖についての知識が欲しくて、この学院にいらっしゃっているとお聞きしたのですが、まずその認識は相違ないでしょうか?」


「えぇ、そうよ?」


「では、マグネア様。ワルツ先生に自動杖の知識を開示してください」


「えっ?」

「……はい?」


 ジョセフィーヌは自動杖の情報開示のルールについて知っているはずなのに、急に何を言い出すのか……。ワルツもマグネアも、耳を疑っている様子だった。


 しかし、そんな2人を前にしても、ジョセフィーヌは態度を変えることも、発言を改めることもなかった。そればかりか、ニッコリと微笑んだのである。


 マグネアはジョセフィーヌの態度を見て、一瞬、正気を疑ったようだ。しかし、よく考えてみると、ジョセフィーヌの発言の意図が見えてくる。


「……なるほど」


「えっ」


 結果、事情を知らないワルツだけが取り残される形になった。


 そんなワルツに、マグネアが説明を始めた。


「自動杖の知識の開示には、許可が必要になります。もしも許可なく誰かに伝えようとすると、その者は呪魔法を受けて死んでしまうのです」


「確か、ハイスピア先生も、そんな感じのことを言ってたわね……。呪魔法だったかどうだったかは忘れたけど……」


「その呪魔法を解くには、公都にある魔道具を使用しなくてはならないのです」


 マグネアのその発言を聞いて、ワルツは理解した。


「……なるほど。つまり、公都を取り戻さなければ、私たちが自動杖の知識を得ることは不可能、ってわけね?」


「そうなります」


 肯定したのはジョセフィーヌだ。ようするに、彼女は、自動杖の知識を渡す代わりに、ワルツたちに公都を取り戻して欲しいというのである。更に言えば、公都のどこにあるどんな魔道具かを言わなかったので、後からいくらでも要求を変えられるということ。全国の貴族たちの同意が必要、と言ってしまえば、制圧するのは公都だけでなく、全国の貴族たちも制圧の対象になる、というわけである。


「こればかりは、私たちにもどうにもなりません。公都を取り戻して頂かなければ、たとえ進級して研究室に配属されたとしても、自動杖の技術を開示することは難しいと思います」


「……ミッドエデンに、レストフェンの内戦に参加しろって?」


 戦争になれば少なからず誰かが傷つくことになるはず……。ワルツとしては、自分たちの勝手で、ミッドエデンを戦争に巻き込むつもりはなかった。人の命と、学生を続ける事を、天秤には掛けられなかったのだ。


 ゆえにワルツとしては、ジョセフィーヌから、エネルギアなどのミッドエデンの兵器を使い戦争に加担して欲しいと頼まれれば、断るつもりでいたようだ。ただ、ジョセフィーヌとしては、ミッドエデンを戦争に加担させるつもりはなかったようである。


「ワルツ様の国とレストフェンとの争いが、戦争と呼べるものになるなら、仰る通り戦争なのだと思います。ですが……果たして争いになるでしょうか?」


 直接、怨恨を買うようなことすれば話は別かも知れないが、抑止力として力を見せつければ、相手のことをねじ伏せられるのではないか、というわけである。それこそワルツが先ほどやったように、エネルギアのレールキャノンを使った威嚇射撃を利用するなどして。


 そんなジョセフィーヌの考えに対し、ワルツは返答するのだが……。彼女の返答は、エネルギアによる威嚇射撃を発射する前から、既に決まっていたようである。


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