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14.7-14 侵略14

 エネルギアの主機は、核融合炉である。燃料は海水から作られた重水素と三重水素。水素同士をぶつけて融合させることでヘリウムを作りだしつつ、その際に発生する熱エネルギーを利用して発電機を回し、電力を作り出すのだ。


 エネルギアの船体はその電力を使用して動いているわけだが、中でも特に莫大な電力を使用するのが、船体上部に格納されているレールキャノンである。人の身長ほどの太さがある巨大なタングステン弾体に、強大な磁力と電流を掛け、ローレンツ力により砲塔から射出するという兵器だ。


 特にエネルギアの場合は、砲塔の冷却や、レールの超伝導化などに至るまで、システムのほぼすべてを電力で賄わなければならなかったこともあり、必要となる電力は膨大。核融合炉をしばらくフル稼働させて、コンデンサに電力をチャージしなければ発射できない代物だった。


 突然、そんなものが稼働を始めたのだから、エネルギアの権化たるmk1とmk2は焦った。自分たちの意思とは関係無く、レールキャノンが動き始めるというのは完全な想定外で、事前連絡も受けていなかったのだ。


『《お姉ちゃん?!》』


 最上位権限を使える人物など1人しかいない……。人の姿をしたエネルギアたちは、慌ててワルツに事情を問いかけようとした。


 そんな2人の事を、ワルツは手で制した。


「別に戦争を始めようって訳じゃないから安心して?」


 もしもその言葉を受けたのが、エネルギア姉妹ではなく、例えばワルツの弟分であるアトラスだったなら、『なにいってんだ姉貴?!』などとワルツの正気を疑う発言が飛んできていたに違いない。しかし、そこにいたのは、純粋無垢(?)なエネルギア姉妹。


『《……ならいっか!》』


 あらゆる意味で最上位権限を振りかざすワルツの言葉をすんなりと信じたのである。


 なお、その様子を横から眺めていた剣士ビクトールは——、


「あぁ……またヤバいのが始まるのか……」げっそり


——もはや我関せずといった様子。自分にはどうにも出来ない事だと悟った彼は、3人のやり取りを静かに眺めていたようだ。


 結果——、


   ガコンッ……ウィィィィンッ!!


——2門の巨大な砲身の内、1門が、甲高い機械音を上げて、その巨大さに似合わない俊敏な動きで東側の空を捉える。弾道は公都上空を通過するコース。


 狙いを定めた後、ワルツは艦内放送と艦外放送の両方を使い、明瞭な声で呼びかけた。


『これよりエネルギアによる威嚇射撃を行います。カウントダウン後に砲撃するので、鼓膜を破りたくない人は耳を塞いで下さい。3……』


 カウントダウンは10からではないらしい。ただし、ワルツが短気だったからというわけではない。コンデンサをチャージするのに、あと3秒で十分だったからだ。


『2』


 ワルツのカウントダウンで、耳を塞いだのは、生徒たちの半分ほど。ジョセフィーヌに対して敵対的な考えを持つ者まで耳を塞いでいたのは、エネルギアの奇妙な動きを見て、何かが起こると直感したからか。


『1』


 ワルツが最後の1秒を数えた時には、教師たちも耳を塞いでいたようである。マグネア辺りは、ワルツの行動を止めようとしていたようだが、両耳を塞がなければどうなるか分からなかったので、結局彼女にはワルツを止める事は出来ず——、


『0』


——ワルツによる最上位命令は実行されることになった。


 その直後に生じた音を文字で書くなら——、


   ズドォォォォン!!


——と表現するよりも——、


   バリバリバリッ!!


——と表現した方が良いかも知れない。音速を遙かに超える速度でタンクステン弾体が飛び去っていった結果だ。初速を稼ぐための火薬による爆発で生じた爆音の後に、ソニックブームが連続的に学院の周囲へと飛来したのである。


 もはや、五月蠅いというレベルではなかった。学院にあったガラス窓などは、例外なくすべてが割れてしまう程の衝撃だ。


 だが、それでも、学院の被害は結果的にゼロ。なぜなら——、


『んもう!僕たちの仕事を増やさないで下さいよ!』

『『『そうだ!そうだ!』』』


——と文句を言いながら、黒い昆虫のような者たちが、ごく短時間でガラスを修復してしまったからだ。人の姿になってジャック少年のことを案内しているポテンティア以外のポテンティア——もといマイクロマシンたちである。


 それ以外にも、どこからともなく超強力な回復魔法が飛んできて、学院全体を包み込んだ。ルシアの回復魔法だ。それにより、鼓膜が破れてしまった者たちの耳が元通りになり、学院はエネルギアの砲撃による衝撃によって被害を受ける前の状態まで戻ったのである。


 ……唯一。生徒たちや教師たち、それに——、


「な、な、な……?!」


——ジョセフィーヌたちの心に、治ることのない大きな傷を残して。


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