14.7-12 侵略12
その頃、ジャックは、ポテンティアに、エネルギア艦内を案内されていた。
『ここが艦橋。この船を動かす中枢のような場所です』
ガションッ!
「ほわぁぁぁぁっ!!」
ポテンティアが案内すればするほど、ジャックのテンションは高まっていたようだ。彼にとってエネルギアの内部は、生まれて初めて見るものばかり。ワルツたちにとっては何と言うことはない床も壁も天井も、あるいはドアも電灯も廊下の手すりすらも、彼にとっては興味をそそられるものばかりだったのだ。
それが最高潮に達した頃、ポテンティアはエネルギアの艦橋へとジャックを連れてやってきた。エネルギアの中で最も近代的な場所は艦橋なので、案内のフィナーレとしてはこれ以上ない場所だと考えていたらしい。
ポテンティアたちが艦橋に入った時点では、艦が停止状態にあるためか、艦橋の機能も最低限しか動いていない様子だった。ホログラムモニタは起動しておらず、やや薄暗い半球ドームが広がるだけ。例えるなら、上映前のプラネタリウムのような雰囲気が漂っていた。
それでもジャックのテンションは高かった。艦橋の中を照らすためにほんのりと光っていた全周モニターに、強い興味を惹かれていたのだ。モニターにつなぎ目がなく、壁までの距離感が上手く掴めなかったことが、彼の好奇心を刺激したらしい。
「すげぇー!なんだこれ?!すげぇー!」
もはや、すげぇ、という言葉か、なんだこれ、という言葉しか口に出来なくなっていたジャックを前に、ポテンティアは苦笑を浮かべてから……。オペレーター席のモニターに手を触れて、外の景色を表示しようとした。そうすれば、ジャックのテンションは更に加速すると考えて。
ただ、ポテンティアのその操作は、彼の意思に反して受け付けられなかった。というのも——、
ブゥン……!!
ポテンティアが操作する前に、艦橋の機能が起動を始めたからだ。
『……ん?どうして……』
「ふぉぉぉぉぉっ!!外が見える?!すげぇ!!」
なぜ急に艦橋のシステムが起動したのか……。ポテンティアが困惑しながら、オペレーター席のモニターに目を向けると、そこにはこんなことが書かれていたようである。
上位コマンド介入、と。
◇
同時刻、医務室にいたカタリナは、意識の無いミレニアのことを詳しく調べていたようである。血液検査に始まり、X線検査、CTスキャンなどなど……。最近、突然意識を失うというミレニアが何か病気に罹っていないか、念のため詳しく調べていたのである。
結果は——、
「健康体そのものですね」
「…………」にゅる
——どうしようもなく健康そのもの。機材を使って検査する限り、彼女に異常は見つからなかった。
機材を使わない検査も実施した。魔力的な検査だ。例えば、勇者パーティーの魔法使いリアは、魔力が身体から勝手に抜けていく病を患っているが、この病は機械を使って調べられるものではないのである。科学的な機械では、魔力そのものに干渉することはできないからだ。
ゆえにカタリナは、これまでの経験や、獣耳を使っての聴診などを駆使し、ミレニアから魔力が漏れていないか、あるいは魔力が過剰に生成されていないかについても細かく調べていった。それが出来るのは、ミッドエデンでも彼女だけ。科学的な側面と、魔法的な側面から患者を診られるからこそ、彼女はミッドエデンでこう呼ばれるのだ。……最高の医者、と。
しかし——、
「……やはり、健康体そのものですね」
「…………」にゅる
——どう考えても、ミレニアは健康そのもの。ゆえに、カタリナは、こんな結論を出さざるを得なかったようだ。
「……これは、彼女のことを驚かせる周りの人たち……つまりワルツさん方が悪い、としか思えませんね。驚かせすぎて、気絶してしまった……。先ほどの出来事が良い例です」
「…………」にゅる
悪いのはミレニアの身体ではなく、彼女を取り巻く環境——もとい、ワルツたちが悪いのだろう……。カタリナには、それ以外に原因は思い当たらなかったようである。まぁ、実際、その通りなのだが……。
そんな時のことだ。
ゴゴゴゴゴ……
エネルギアの船体が小さく揺れたのは。




