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14.7-11 侵略11

 ここまで付いてきて、かつ支援物資を受け取るのだから、当然、皆、荷物を運んでくれるのだろう……。ワルツは深く考えないまま、後ろにいた者たちへと呼びかけた。


 実際、事情を知っていた教員たちは、手伝うこと自体は吝かではなかったようだが、彼らはワルツが呼びかけてもすぐには反応できなかったようだ。彼らの目の前にあった巨大なエネルギアに、意識を引っ張られていたからだ。


 その他、教師たちの後ろから着いてきていた学生たちは、手伝うつもりで教師たちについてきたわけではなく、成り行きでここまでやってきただけのようだ。ごく一部の生徒たちが教師に追従し、その学生たちを見ていた他の生徒たちが自分たちも行かなければならないのかと誤解して……。結果的に皆が、ゾロゾロとワルツの後ろに連なって、エネルギアへと近付いてきていたというわけだ。


 そんな中、ワルツの呼びかけに明確な反応を見せたのは、レストフェン大公国の主、ジョセフィーヌだった。学院関係者の先頭に立っていたので、ワルツの声がちゃんと耳——いや頭に届いていたようだ。


「喜んでお手伝いいたします」


 彼女がそう言って一歩前に踏み出ると、彼女の護衛として着いてきていた騎士たちも我を取り戻して、ジョセフィーヌに追従する。


 するとようやく教師たちも、我に返って意識をワルツへと向けた。ちなみにハイスピアは、我に返った時点で前の集団と距離が開いていたので、慌てて走り寄っていたようだ。


 そんな一同のことを手招きしながら、ワルツはエネルギアの巨大なハッチを上がって、先導する。すると、皆、ワルツの後ろを着いてくるのだが、エネルギアのハッチを上がって、倉庫内部を見たところで、再びぽかーんと口を開けたまま固まってしまった。


 ただ、ワルツとしては、そんな展開を予想出来ていたらしく、彼らが我に返るのを何も言わずに大人しく待っていたようだ。エネルギアの外見を見て驚いていたのだから、内側を見れば同じように驚いてもおかしくないと考えるのは想像に難くなかったらしい。


 1分ほど放置していると、ジョセフィーヌが現実世界に戻ってきたので、ワルツは細かい事を説明せずに、再びジョセフィーヌたちのことを手招きした。ワルツが次に案内(?)するのは、倉庫区画の隣にある冷凍室だ。


 ワルツは冷凍室の前に立つと、ジョセフィーヌたちに向かって説明を始める。


「冷凍庫はこっちよ?この中の荷物は重くて冷たいと思うから……ああ、そうそう。この台車を使って貰えれば良いわ?このボタンを押すと壁から出てくるから(電動馬車とかトラックとか、そんな感じのものを搭載しておいても良かったかも知れないわね……)」


 エネルギアの改善点について考えながら、ワルツは荷物を運ぶための台車の使用許可を出したわけだが、ジョセフィーヌたちはただの台車を見て再び固まってしまう。


 理由はいくつかある。例えば、この国の一般的な台車と言えば木で出来た荷車のようなものだが、そこにあった台車は現代世界風の台車だったことである。アルミ合金製の手すりとプラスチック製の土台に、ベアリング付きのタイヤなどなど……。ワルツたちミッドエデン関係者にとっては何も変わった事はないただの台車だったが、レストフェン大公国における一般的な"台車"とはかなり異なっていたのである。


 他の理由としては、台車が倉庫の壁から次から次に出てくることも、ジョセフィーヌたちが驚いていた原因だと言えた。台車は当初、すっぽりと壁の中に収納されていて、ワルツがボタンを押す度に、一つ一つ、壁の中から出てくるのである。エネルギアは空中戦艦。そのため、突然の衝撃や振動に襲われて台車が勝手に転がってしまうかもしれないので、台車は普段、壁の中に収納されていたのだ。ワルツたちとしてはなんということはないただの工夫だったが、ジョセフィーヌたちからすれば、異常なこだわりを持って収納場所を作ったようにしか見えなかったのだ。


 あるいは、ボタンにも注意が向けられていたようだ。魔法でも魔法陣を使ったボタンもどきのような機能を再現可能だが、電気で動くボタンについては、皆、これまで見たことがなかったのだ。ワルツがボタンを押す度に、ピッ、という電子音と、ウィーンというモーター音を生じさせながら、壁から排出される台車の姿は、目を剥きながら驚愕に値するものだったのである。


「んなっ……」


「うん?何?その顔。まさか、台車を見るのが初めてとか言わないわよね?」


「は、初めてです!このような形状であることも、壁から出てくるのも、滑らかに回るタイヤも、片手で持てるくらい軽いというのも、すべて初めて見ます」


「そ、そうだったのね……」


 文明の差に気付いて内心で頭を抱えた後、ワルツは台車を一つ手にして……。そして、冷凍室の扉の前に立って、こう言った。


「まぁ、何でも良いけど、この中、すんごく寒いから、気合いを入れて荷物を回収したら、すぐに外に出ること。じゃないと、数分で凍死すると思うから」


 ワルツはそう言って冷凍室の扉にあったタッチパネルに手を触れた。すると——、


   ピピッ


——という電子音の後に——、


   ガションッ!


——扉が勢いよく左右に開く。それと同時に部屋の中からは猛烈な冷気が流れてきた。


「さぁ、この中が冷凍……うん?」


 ワルツは不意に言葉を止めた。というのも、ジョセフィーヌたちがまた固まっていたからだ。今度は自動ドアと人感ライト、タッチパネルに電子認証装置などの存在に意識を奪われてしまったようだ。

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