14.7-10 侵略10
何故、生徒たちも付いてきているのか……。後ろからゾロゾロと付いてくるジョセフィーヌたちや生徒たちに気付いたワルツは一瞬、頭の中が真っ白になった。生徒たちが付いてくることまでは想定していなかったのだ。
しかし、今更、引き返すのは面倒な上、生徒たちの中を通って戻ることになるので、彼女は荷物の受け取りを強行することを決める。なお、そのままエネルギアのことを通り過ぎて、明後日の方向に歩いて行こうか、ともワルツは考えていたようだが、皆がどこまでも付いて来た場合、収拾が付けられなくなるので、その選択肢は大人しくお蔵入りにすることにしたようだ。
「エ、エネルギア!荷物を取りに来たわよ?」
エネルギアの見慣れたハッチの前で、ワルツが呼びかけるのとほぼ同時に、中からいつもの3人組が顔を見せる。少女の姿をしたエネルギアmk1、妖精の姿をしたmk2、それに、2人の保護者である剣士ビクトールだ。
『ワルツ様だ!ルシアちゃんもテレサ様もいる!おひさー!』ぶんぶん
《3人だけじゃなくて、なんか……後ろにいっぱいいるけど……》
「久しぶりだな。前回会ってから2週間も経ってない気がするが……背が縮んだか?」
出迎えた3人は、ワルツたちの後ろから見知らぬ顔ぶれが数百人ほどやってきたのを見て、少しだけ驚いたようだが、ワルツが戸惑っているほどには驚いていなかったようだ。もしもミッドエデンなら、ワルツたちが率いる人々は、数百人どころか、数十万、数百万と連なっていたとしても、何ら不思議ではないので、気にならなかったらしい。
対するワルツは、どこか疲れているとも、諦めているともいえる様子で、肩を竦める。
「背のことは気にしないで欲しいわね。まぁ、それは置いておいて……私が直接来たなら、荷物の受け取りには問題無いでしょ?それとも皆の前で宣言した方が良い?ミッドエデンからの支援、感謝いたします、って」
「いや、ワルツ本人が荷物を受け取りに来たら荷物を渡しても良い、とコルテックス様は言ってたから問題は無い。それに俺たちも、そんな仰々しい挨拶とか向けられても困るだけだしな」
そんなビクトールの発言に、ワルツは眉を顰めた。
「……ちなみに聞くけど、どうして私は呼び捨てなのに、コルテックスのことは様付けなの?」
コルテックスとの扱いの差が気になっていたらしい。
対するビクトールは、やれやれ、といった様子で、両手を空へとひっくり返しながら逆に質問する。
「……呼び捨てで呼んだらどうなるか分かってて聞いてるのか?」
「……いや、その返答だけで何となく察したわ。でも、別に気にしなくても良いと思うけれど……」
呼び方など気にする必要はないと思うワルツだったが、彼女が知らないだけで、コルテックスやその周辺では、見えない力学のようなものが働いているようだ。
「というわけで、荷物を貰うわよ?冷凍庫?」
「あぁ。一応、食料品以外の支援物資も持ってきたが……いるか?」
「ちなみに内訳は?」
「箱の中身は聞いてないが……武器だって話だ」
「いらない。コルテックスったら、私たちに何しろって言うのよ。もしかして戦争?本気出したら、大陸ごと焼け野原になるわよ……」
「そうか?聞いた話だと、ほぼ戦争と言えるような状態にあると聞いていたが……」
「まぁ、否定はしないけど……今のところは、ポテンティアが守ってくれているおかげで、問題にはなっていないわ?……まさか、ポテンティアまで税金で動いている、とか言わないわよね?」
「そこまでは聞いてないな……」
「そう……。あ、今の話、コルテックスには言わないでよね?私に嫌がらせをしたら、そのうち戻ってくるかも知れない、なんて思われたら嫌だから」
どうやら、ワルツとしては、戻って来ざるを得ないような嫌がらせは、さすがに嫌すぎたらしい。対するビクトールやエネルギアも、ワルツが本気で嫌がっていることを察して、コルテックスには伝えないでおくことにしたようである。
そして——、
「それじゃぁ、みんなで荷物を運ぶわよ!」
——ワルツは後ろから付いてきていた面々に声を向けた。




