14.7-09 侵略9
『んとねー、どうやって荷物を運ぶのか、相談したかったの!』
『ワルツ様が運ぶ?ルシアちゃんが転移魔法を使う?ポテちゃんが頑張って運ぶ?ビクトールさんがひょいっと——』
『すまん、俺には無理……』
『『またまたー』』
『お前ら、俺を何だと思ってるんだ……』
エネルギア艦内には、支援物資として、相当量の冷凍食品が積まれていたので、誰かがワルツたちのいる倉庫まで運ばなければならなかった。エネルギアたちにできるのは、学院まで荷物を運んでくること。倉庫への搬入は彼女たちには出来ない事だったのだ。
ワルツに機動装甲があったころなら、彼女は高出力の重力制御システムを使い、軽々と荷物を運んでいたはずだが、今の身体では少々難しかった。運んで運べない事は無いが、エネルギー消費が激しく、大量の物体を宙に浮かべるというのはあまり賢いやり方ではなかったのだ。何トンもある荷物を運びながらエネルギアと食堂との間を行き来する間、相応の食事を取ってエネルギーを補充し続けなければ、彼女は瞬時にガス欠になってしまうことだろう。その他、皆に姿を見られる確率が格段に上がるというのも、ワルツが自力で荷物を運びたくなかった理由の一つだと言えた。
あるいは、ルシアが転移魔法で運ぶという方法も考えられたが、ワルツはルシアに頼りすぎるというのはできるだけ避けたかったようである。そんなことをすれば、ワルツはルシアに頼り切りになる生活を送ることになるので、姉としてのプライドが許せなかったらしい。まぁ、今回限りで、という条件付きで運ぶのであれば、極めて現実的な選択肢ではあったが。
その他、ポテンティアに運んで貰うという選択肢は論外である。黒い虫がグラウンドを埋め尽くすようなことがあれば、学院内は大騒ぎどころか、阿鼻叫喚に包まれるに違いない。
というわけで——、
「……一周回って、ポテンティアに運んで貰うっていう手もあるけど——」
——ワルツは面白半分で、学院を騒然とさせるという選択肢もアリかと考えたものの——、
「まぁ、流石に生徒たちが可哀想だから、それは無しね。ルシアが転移魔法で転移させるっていうのが現実的かしら?申し訳ないけれど……」
——という提案を口にした。ルシアとしても、吝かではなかったらしく、彼女は姉の提案に協力するつもりだったようだ。
だが、ワルツの発言に異論を唱える者が現れる。
『あー、すまない、ワルツ。コルテックス様から言伝てを頼まれているんだが、今回の荷物は、できるだけ人目に付くように運んで欲しいとのことだ』
「は?」
『ミッドエデンから送られてきた荷物である事を隠さずに運んで欲しいという話だった。俺にはよくわからんが、ワルツにこう言えば全部理解してくれるって言ってたぞ?えっとな……何だっけ?』
『『税☆金!』』
『……だとさ?』
「…………」
ワルツは閉口した。そりゃそうだと納得できたらしい。ようするに、今回の支援物資も、前回の支援物資も、ミッドエデンの国民から回収した税金で賄われているので、他国を支援するなら、ミッドエデンの支援である事を公にすべきだ、というわけである。
これには流石のワルツも反論できなかった。もしも彼女に機動装甲があるなら、機内の異相空間に大量に隠し持っている金塊をミッドエデンに送って、支援に掛かった費用を自費で補填するという方法も考えられたが、今の彼女はほぼ無一文。悪あがきすら出来ない状況だった。
「分かったわよ……。荷物を運ぶこと気に、ミッドエデンの旗でも持って運んで貰えば良いのかしら?」
『コルテックス様曰く、まかせる、とさ?ちなみに俺たちは、ミッドエデンの旗は持ってきてないぞ?』
「……もう!私たちが人力で運ぶしかないじゃない!これは私たちが関係する支援物資だ、って」
ワルツは人目に付かない方法で荷物を運ぶ方法は無いと悟って開き直った。もう、どうにでもなれ、と。
「皆!行くわよ!」
自棄になったワルツが、倉庫の影から、グラウンドへと歩み出る。その後ろをルシアが苦笑しながら追いかけ、テレサも肩を落としながら追いかけ……。一人残されたアステリアが慌てて追いかけて——という所までは普段の面々だったが、さらにその後ろをジョセフィーヌ、ハイスピア、マグネアなど、そうそうたるメンバーが追いかけていった。
そのことにワルツが気付いたのは、エネルギアのハッチ前に到着してからのことで……。彼女は後ろからゾロゾロと人々が付いてきていることに気付いて、唖然としていたようである。
そして何より、彼女が驚いた理由。それは——ジョセフィーヌたちの後ろから、学院の生徒たちも繋がって付いてきていることだった。




