14.7-07 侵略7
ジャックがポテンティアにエネルギア艦内を案内され、メカニカルな光景を前に、男子学生らしくテンション高めに小躍り(?)していたころ。
「…………」
「ジョセフィーヌ?」
「…………」
「ジョセフィーヌゥーッ?……うん。反応が無いわ。試しに、鼻の下にワサビでも——」
「いやいや、それはただの嫌がらせなのじゃ」
授業を中断したワルツたちは、皆揃って食堂の建物の横にやってきていた。エネルギアは食料品も運んでくる予定だったので、その受け入れの準備を進めていたのだ。
食堂はグラウンドの横に位置していたために、エネルギアの船体の姿をハッキリと見て取る事が出来た。そのせいか、ジョセフィーヌはエネルギアの姿を見て固まり、ワルツが彼女の目の前で手を振っていても、何も反応を返さなくなっていたようである。レストフェン大公国の一般常識では、エネルギアの存在を計る事は出来なかったようだ。
ちなみに、ジョセフィーヌの隣には、ハイスピアを始めとした教師たちの他、学院長のマグネアなどの姿があったのだが、皆、ジョセフィーヌと同じような反応を見せていて、皆まるで石化の魔法でも受けたかのようにピタリと固まっていたようである。そんな彼女たちの内心を言葉で表現するのは難しいが、強いて表現するなら、真っ白になっていた、と言えるだろうか。なお、この世界に石化魔法が実在するかどうかは不明である。
一方、食堂横に集まっていたメンバーの中には、アステリアの姿もあったようだが、彼女の立ち直りは比較的早かったようである。彼女は、昨晩のうちにポテンティアから本当の姿の紹介を受けていたので、彼と同型艦であるエネルギアの姿を見ても、他の者たちほどは困惑しなかったらしい。
彼女はハッとした様子で我に返ると、隣にいたルシアに対して問いかけた。
「え、えっと……ルシア様?もしかして、あの白い大きなやつも、人の姿に変身して、学院の生徒の中に紛れているんでしょうか?」
「うん?人の姿に変身して生徒に紛れる……?」
「ポテンティア様みたいにです」
「あぁ……なるほどね。ううん?エネちゃんたちは生徒の中には紛れてないよ?そもそも、ポテちゃんみたいにあんな気持ち悪い変身できないし、それに2人ともあの船からそんなに離れることはできないから」
「えっ……?」
今度はアステリアが首を傾げる番だった。ルシアの言葉が理解出来なかったのだ。"2人"という言葉もそうだが、中でも特に、空を飛ぶ、という部分が気になっていたようだ。昨晩、彼女がポテンティアと会った際は、周囲は真っ暗。しかも、背の高い木々に囲まれていたこともあって、空に浮かぶ戦艦ポテンティアの姿の全容までは見えなかったので、ポテンティアやエネルギアが空を飛ぶとは思わなかったらしい。
「原理は分からないけど、あのおっきな白いやつが空を飛ぶんだよ?不思議だよねー」
「空を……飛ぶ……」
そう口にしたアステリアは、どういうわけか目をキラキラと輝かせた。どうやらルシアの発言のどこかに、強く興味を惹かれる一文があったようだ。
ちなみに、そんなアステリアの様子に気付いたある人物が、めざとく彼女の背中に視線をロックオンしていたようだが、当のアステリアは、気配を感じてブルリと身を震わせるだけで、誰からの視線だったのか、あるいは誰から発せられた異様な気配だったのかは、分からない様子だった。どうやら、相手は気配を消すことに相当長けている人物らしい。きっと、尻尾が3本以上生えている人物に違いない。
そんなメンバーたちのエネルギアに対する反応を一瞥した後、ワルツはその場にいた者たちに向かって呼びかけた。
「さて、エネルギアからの荷下ろしが始まる前に、冷凍庫の稼働を始めるわよ?」
ワルツがそう口にすると、ハイスピアが我に返って(?)、準備を始める。
「えへへへへ……冷凍庫〜♪冷凍庫〜♪」ふらふら
「ちょっ……先生?!壊れながら準備するのやめて貰えません?なんか事故る気しかしなくて、すっごく怖いのですけど……」
ハイスピアが現実逃避をする際に見せる反応に対し、ワルツはそこはかとない不安を感じて、注意を呼びかけた。しかし、彼女の予想とは裏腹に、ハイスピアは精神崩壊を起こしたままでも、ちゃんと仕事がこなせるらしく……。冷凍庫の中核となる氷魔法と風魔法の自動杖に対し、とても嬉しそうに魔力を充填して回っていたようだ。ハイスピアがまともな精神状態の時に、授業で自動杖の魔力充填を忘れた前例があることを考えると、少し壊れていた方がまともな仕事ができると言えるかも知れない。
そして間もなくして準備が整った後。ワルツがその場に用意されていた魔法陣を操作するのと同時に——、
ガシュゥゥゥッ!!
——部屋の棚に設置されていた複数の自動杖から、部屋内部へと向かって、一斉に氷魔法と風魔法が放たれたのである
5月が終わるのじゃぁぁぁぁっ!!




