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14.7-03 侵略3

 ミレニアの幼なじみであるジャックは、他の学生たちと同じように廊下に出て、そこからグラウンドの方を覗き込んでいた。


「おい、見ろよ!ミレニア!見たことも無いようなデカい魔物がいるぜ?」


 テンション高めにジャックがミレニアへと問いかけるも、隣にいたミレニアは、ジャックとは真逆。テンションが低いどころか、グラウンドの物体や、狐の獣人、あるいは名状しがたい形状の黒い魔物には向けられておらず、心ここにあらずと言った様子だった。


 彼女はこの時、考え込んでいたようである。ただし、目の前の光景について考えを巡らせていたわけでも、あるいは授業の内容を反芻していたわけでもない。昨晩、()()の名を聞きそびれたことを、引きずっていたのである。しかも、名前を聞きそびれた原因は、所謂"G"と呼ばれる黒い昆虫の存在に気付いて、嫌悪の限りに攻撃したこと。大人げないと言わざるを得ない自分の行動に、ミレニアは後悔を通り越して、絶望すら感じていたようだ。


 そんなミレニアのことを、ジャックは心配そうに覗き込む。


「どうしたんだ?ミレニア。落ちてるモノでも食って、腹を壊したのか?」


「…………」


「ホント、大丈夫か?お前らしくないぞ」


「……放っておいて」


 ミレニアはジャックのことを突き放した。対するジャックも、ミレニアに突き放されるのはこれが初めての事ではなかったためか、いつものことだと考えて、大人しく引き下がろうとする。


 そんな時だ。


『ミレニアさん。お迎えに参りました』


 中性的な声が、ミレニアの背後から聞こえてきた。


 ジャックは聞き覚えのない声に、怪訝そうな表情を浮かべながら後ろを振り向こうとする。しかし、彼はすぐに後ろを振り向けなかった。視線の先にいたミレニアの反応に、目を奪われてしまったのだ。


 声が聞こえる直前、ミレニアが浮かべていた表情は、曇天のような暗い色。それが、声が聞こえた後は、嵐が抜けた後の空のように明るい色へと一瞬で変わっていたのである。


 その様子を真隣で見ていたジャックとしては、色々と気に入らないようだった。自分が呼びかけてもミレニアの反応は殆ど無かったというのに、聞き覚えの無い声が聞こえた瞬間、ミレニアの表情が明らかに嬉しそうな色を帯びたからだ。


 それゆえか、次にジャックの口から出た言葉は、随分と攻撃的な内容になってしまった。


「誰だお前!」


 ジャックは敵意をむき出しにして、ミレニアへと話しかけてきた人物へと振り返った。するとそこには、やはり見たことのない"少年"が立っていて、ニッコリと笑みを浮かべていたようである。


 そんな見知らぬ少年を前に、攻撃的な口調で誰何したジャックは、しかしどういうわけか、そのまま固まってしまう。何か思う事があったらしく、目を丸くして、どこかボーッとしたような様子で。


 対する"少年"は、突然誰何されるとは思っていなかったのか、大きな目をパチパチとさせて首を傾げた後、再びニッコリと微笑みながら、自身の名前を口にした。


『これはお初にお目にかかります。僕の名前はポテンティアです』


「「ポ、ポテンティア……」」


 何故かミレニアとジャックの声が重なる。既にそこに攻撃的な態度は無い。


『この学院までお医者様にお越し頂いたので、ミレニア様の事をお呼びに参りました次第です』


「お、お医者様って……まさか、昨日言っていた……」


 顔を仄かに紅潮させながら、戸惑い気味にミレニアが問いかけると、ポテンティアはコクリと頷いてグラウンドに視線を向けた。


『あの方がお医者様のカタリナ様です。設備はあちらの()の方に準備しておりますので、そこまでご案内いたします。さぁ、こちらです』


 そう言ってポテンティアがミレニアのことをエスコートしようとすると、ようやくジャックが我に返った様子で、ポテンティアに対して再び敵意を向け始める。


「ま、待てよ!」


 というジャックに対し、ポテンティアは素直に立ち止まって振り返ると、こう言った。


『ふむ……確かに、どこぞの馬の骨とも分からない僕がエスコートするというのは、ミレニアさんにとって心細いことかも知れません』


「「えっ……」」


『もしよろしければ、あなたも一緒にいかがでしょう?それでミレニアさんの心配が拭えるのでしたら、僕としてもご一緒に案内するのは吝かではありません』


 そう言って、ジャックに対し微笑むポテンティア。


 そんな彼の問いかけに対するジャックの返答は——、


「は、はい……」


——まるで借りてきた猫、といった様子で……。どういうわけか、毒気は完全に抜け落ちていたようだった。


妾が単なる3角関係を描くと?

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